ここから本文です

成育科ブログ

2019.07.15

このエントリーをはてなブックマークに追加
Share on Facebook
Post to Google Buzz
Bookmark this on Yahoo Bookmark

先月6月1日(土)に第11回あきた母乳育児をささえる会学習会にお招きいただき「知ってほしい、赤ちゃんのこと ~少子化対策に欠けていた視点とその処方箋」と題して、なぜ日本の少子化対策がことごとく失敗してしまったのかについて小児科医からの目線でお話しさせていただきました。その時の内容の少しまとめてみたいと思います。
スライド1 (Custom)
本題に入る前に人口に関する基礎的事項と少子化に至る社会的背景に関してまとめてみました。
スライド32 (Custom)
スライド53 (Custom)
以上を踏まえた上で「どうして合計特殊出生率は上がらない?」と言う本題に関して考えてみます。
スライド61 (Custom)
小児・新生児医療に関わっていると仕事柄どうしても、子育て中にいろんな理由で「困っている」お母さんやご家族からのお話を聞くことになります。少なくともお母さんの仕事との両立と言う観点から言えば、お子さんの病気や入院など突発的なことが起こった時のセーフティーネットは極めて脆弱と感じます。こうした突発的な状況を「有事」とすれば、いわゆる「少子化対策」と言われるもののほとんどは「平時」の対策に偏っているように感じます。まして、「保育園に入れない」などと言う事態は、この綱渡りすら叶わずに手前の崖の前で立ちすくんでいるような状況でしょう。
スライド259 (Custom)
結論から言ってしまえば、どうして合計特殊出生率は上がらないのか?と問われれば、その答えを一言で言えば「子育て中に困っていても助けてくれないから」なのではないかと思います。つまり、日本の合計特殊出生率がいつまで経っても上がってこないのは、子どもを持たないことが人生を生きていく上でのリスクマネジメントになってしまった結果なのではないでしょうか?
スライド75 (Custom)
ここまでをまとめると、こどもが増えない原因はこの不安定さにあるのではないか?そして、この不安定さに応えることこそが最大の対策になるのはないかと思います。
スライド130 (Custom)
ただ、問題はそれほど簡単ではないようにも思います。

もっと根深い問題として、そもそもお母さん、と言うよりも女性が働く上での社会環境があるように思います。それは「ケア」に関わる問題です。「ケア」とは、子育てに限らず、家事全般や介護その他、人が生まれてから死んでいくまで、すなわち生老病死に伴って生じる「人の手による世話」全般を指します。かつての高度経済成長時代では、夫が仕事、妻が「ケア」をそれぞれ性別分業することで多くの家庭が成り立っていました。当時の主たる稼ぎ頭であった夫の給与には専業主婦が従事する「ケア」の中におそらくは込み込みになっていたのだと思いますが、「女性の社会進出」ならぬ「女性が働かざるを得ない」社会となってしまった今、この「ケア代」が宙ぶらりんになってしまい、それがどこにも計上されなくなったと言う構図があるようです。この「ケア」という概念は、アン=マリー・スローター氏による「仕事と家庭は両立できない?:「女性が輝く社会」のウソとホント」で紹介されています。
スライド173 (Custom)
昔から、「銃後の守り」と言うことばがあります。これこそが「ケア」そのものなのではないかと思います。そもそも、誰かひとりが時間的・空間的に無限定的に働いていれば、その人は家族のケアに関わることができないので、他の誰かが担うことになります。しかし、生老病死、人生を生きていく上で、育児・介護・病気等々、人生におけるケアの総和はそもそもスタート時点では男女とも同じはずであり、この「ケア」にかかるコストを何らかの形で計上して行く必要があるのでしょう。
スライド174 (Custom)
スライド175 (Custom)
現在でもこの「ケア」の主たる担い手が女性であることが社会としての暗黙の了解となっています。今年の春に東京大学名誉教授の上野千鶴子さんが東京大学の入学式の祝辞で、現在も残る男女差別に言及して大きな反響を呼びました。
スライド150 (Custom)
現実に子育てに限らず「ケア」全般を任されながら仕事をする女性からみると、男性は普通にトラックを走っているのに、自分たちは障害物競走をしているようなものです。これではやる気がなくなってしまって当然でしょう。
スライド147 (Custom)
スライド148 (Custom)
上野さんが指摘されたとおり、日本には男女間において統計学的差別が厳然と存在しており、このため「ケア」を担いながら働く女性自身もまたこうした現状下で諦めの気持ちになっていくことを「予言の自己成就」とも呼ばれています。こうした社会病理とも言える背景は、中野円佳氏による「育休世代」のジレンマ~女性活用はなぜ失敗するのか?に詳細に記されています。
スライド149 (Custom)

こうした構造の背景には「ケア」を他者に任せた働き手のみが評価されると言う構造があります。しかし、一方で近年は共働き世帯が主となっていることを考え合わせると、例えば夫が「ケア」に全く関与せず無限定的に働いているとすれば、「ケア」の負担は妻の方に大きくかかっていくことになります。これは、妻の勤務先の立場からみると、時短勤務にしなければならなかったり頻繁に休んだりと、勤務先としても負担がかかっていることになります。

ここで例えば、専ら男社会で、女性社員がいても子育て中ではとても勤務継続ができないような職場と、子育て中の女性比率の高い職場があったとします。この二つの職場を比べると、前者は子育てに関しての負担がその組織としてはほとんど負っていない一方、後者の職場は組織としては子育てに関する負担が大きくかかっていることになります。そうすると、社会全体として俯瞰すると、子育てに関する負担をほとんど負わない組織は、子育てに関して理解のある組織に対して「ただ乗り(フリーライド)」していると言うことにならないでしょうか?そうした視点も今後必要となってくるのではないかと思います。
スライド177 (Custom)

一方、先進諸国の中でフランスは合計特殊出生率を改善させた国として有名です。「フランスはどう少子化を克服したか」の「はじめに」のところにこのような記載があります。
スライド237 (Custom)
日本の場合、この前段のところで思考停止しているように思えてなりません。
20190601あきた母乳育児をささえる会草案238 (Custom)
かつての高度経済成長期の幻影から抜けきれず、専業主婦時代の価値観を根本的に見直すことなく小手先の少子化対策を続けている限り合計特殊出生率が上昇する時代を迎えることはないのだと思います。
20190601あきた母乳育児をささえる会草案0531-2 (Custom)

ただ、ここで絶対に忘れてならないのは「こどもの権利」です。お母さんが仕事をすることと、こどもが病気をしたときにどうするか?と言うことは、時として母が働く権利とこどもの権利がぶつかる場合があり得ます。しかし、ここでこの両者の権利がぶつかること自体に社会の矛盾が潜んでいると考えることはできないでしょうか?「子どもは社会で育てる」と言う言葉が語られますが、その言葉の真の意味とは、子育てに関する仕事上の不利益を親に対して負わせないことなのではないかと考えています。
スライド247 (Custom)
以上、かなり長くなりましたが、秋田の学習会当日は2時間超にもなっており、これでもかなり抜粋してみました。かなり私見ばかりのところもありますので、ご批判は多々あるかと思いますが、小児・新生児医療に関わる者としては、最後の最後のところではこれから社会が変わっていくときに子ども達の権利が守られているかを最終的には注視していかなければならないと思います。
スライド251 (Custom)
今年春の東京大学入学式の上野さんの祝辞に始まり、平成が終わり令和の時代の訪れとともに子育てや女性差別問題に関して様々なニュースが飛び込んできています。きっと、あと10年もしないうちに「令和元年が日本の転機だったね」と言われる節目の時代に私たちはいるのではないかと思います。
スライド250 (Custom)

(文責 成育科 網塚 貴介)

(クリックすると東奥日報連載「知ってほしい赤ちゃんのこと」のバックナンバーへリンクします)

(クリックすると東奥日報連載「知ってほしい赤ちゃんのこと」のバックナンバーへリンクします)

(クリックするとリクルートページにリンクします)

(クリックするとリクルートページにリンクします)

2019.07.01

このエントリーをはてなブックマークに追加
Share on Facebook
Post to Google Buzz
Bookmark this on Yahoo Bookmark

ハイリスク児フォローアップ研究会はNICUから退院したお子さんのフォローアップ体制の充実を目的に組織された研究会で、先日もご紹介したように来年の本研究会は青森市で開催予定です。その1年前の研究会がこの週末に自治医科大学で開催されたので参加してきました。

新幹線で、新青森→仙台駅→宇都宮駅→自治医大駅(と言う駅があります)の経路でようやく到着しました。
IMG_4644-2 (Custom)
自治医科大学構内は信じられないほど広く、小雨の中を歩いて会場に向かいます。少し歩くと大学病院の陰から巨大な建物が姿を現します。入り口はさらに向こう側のようです。
IMG_4647-2 (Custom)
この特徴的な形の建物は新幹線の窓からよく見かけます。会場へは手前の入り口から。
IMG_4648-2 (Custom)
ようやく会場入り口に辿り着きました。本当に構内が広いです。
IMG_4649 (Custom)
今回のハイリスク児フォローアップ研究会は、初日がスキルアップセミナー、2日目が一般演題と特別講演という構成となっており、初日のセミナーから参加しました。今回のメインテーマは「成人期までを見据えたフォローアップ」と言うことで、初日のセミナーも「ハイリスク児フォローアップの卒業を考える」がテーマでした。
NICU退院後のフォローアップと言うとどうしても就学前後あたりまでが主たる関心事になりがちですが、年齢を重ねて行ったその後のことはまだまだ議論が足りない現状があります。いつまでも小児科でフォローアップしているわけにも行かないことや転居や旅行の際の問題点なども多々あります。そうした視点から、今回のセミナーでは、まず佐賀病院の高柳先生から「卒業・連絡手帳」のご提案があり、続いて実際の患者さんのご家族からのこれからにおける心配事や超長期のフォローアップ体制に関する希望などが寄せられました。それを踏まえて、セミナー参加者によるグループワークが行われました。テーマは身体的な観点から、もう一つは発達障害等に関する社会適応に関してです。グループワーク後にはそれぞれで話し合われたことが発表されます。今回は山梨県立中央病院の内藤先生と一緒のグループで、お題を超えての議論でとても刺激になりました。
DSC03859-2 (Custom)
セミナー修了後の懇親会です。今回の会長である自治医科大学の河野由美先生からのご挨拶です。
DSC03863 (Custom)
研究会2日目は朝から一般演題があり、ここでは座長を務めさせていただきました。午後からは特別講演が2題あり、写真はその後のパネルディスカッションの様子です。
DSC03866-2 (Custom)
そして、この来年度のこの研究会は青森市内で開催予定となりましたので、今回参加された皆さんにも日程をお伝えしました。来年の企画はまだ検討段階ですが、詳細が分かり次第、このホームページにもアップしていきます。まずは今回参加された皆さん、大変お疲れさまでした。

(画像をクリックすると第45回ハイリスク児フォローアップ研究会のご案内ページにリンクします)

(画像をクリックすると第45回ハイリスク児フォローアップ研究会のご案内ページにリンクします)

(文責 成育科 網塚 貴介)

(クリックすると東奥日報連載「知ってほしい赤ちゃんのこと」のバックナンバーへリンクします)

(クリックすると東奥日報連載「知ってほしい赤ちゃんのこと」のバックナンバーへリンクします)

(クリックするとリクルートページにリンクします)

(クリックするとリクルートページにリンクします)

ブログ更新情報

(画像をクリックすると青森県庁のページへリンクします)
2019.09.17
災害時における医療的ケア児支援に関する講演会のお知らせ
(画像をクリックすると青森県庁ホームページへリンクします)
2019.09.16
令和元年度青森県医療的ケア児支援シンポジウムのお知らせ
DSC04299 (Custom)
2019.09.15
第21回青森継続看護研究集会in弘前
DSC04255 (Custom)
2019.09.14
医療的ケア児支援看護フォーラム~岐阜県「みらい」の市川さんのご講演
スライド75 (Custom)
2019.07.15
少子化対策はなぜ失敗した?~困っても助けてくれないからでは?
IMG_4648-2 (Custom)
2019.07.01
第43回ハイリスク児フォローアップ研究会in自治医科大学
(画像をクリックすると第45回ハイリスク児フォローアップ研究会のご案内ページにリンクします)
2019.06.15
令和2年度ハイリスク児フォローアップ研究会は青森市で開催されます
IMG_4452 (Custom)
2019.06.13
東北新生児セミナーin仙台
DSC03816 (Custom) (Custom)
2019.06.02
第11回あきた母乳育児をささえる会学習会~少子化対策に欠けていた視点
DSC03813 (2) (Custom)
2019.05.13
弘前市で医療的ケア児支援コーディネーター研修会
IMG_4664 (Custom)
2019.05.07
中央学院大学助産過程で新生児蘇生法講義
58445105_2306145632781483_6810123006648516608_n (Custom)
2019.05.01
在宅新療0-100 2019年4月号~地域の医療機関と共に支える 小児在宅医療の現状と課題

カレンダー

2019年7月
« 6月 9月 »
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031