2016.02.17
東奥日報夕刊の連載 「知ってほしい赤ちゃんのこと」 は今週月曜日が29回目でした。
今回は出産年齢の上昇とそのリスクを取り上げてみました。本文中でも述べましたが、高齢妊娠・出産のリスクがあることは事実として、そのこともまた女性だけの問題として押しつけられてしまっているように思います。
本文中にも述べたように、赤ちゃんが生まれたら普通、心から「おめでとう!」と言うのが人として当たり前のことだと思うのですが、もはや「おめでとう」とさえ思えない世の中になってしまっているように思えません。本文中には書きませんでしたが、赤ちゃんの誕生を心から祝福できないのであれば、もはや人として恥ずべきことなのではないかとさえ感じます。
「なぜ出産年齢が上昇するのか?」と考えた時、その責任は社会を構成している私たちひとりひとりにも責任があると言うことを認識すべきではないかと言う思いで、今回は書かせていただきました。
以下、本文です。
今回は高齢妊娠・出産に関して取り上げたいと思います。
まず、お母さんの年齢別出生数の推移を1991年を1としてどのくらい増えたか、図示してみました。その増え方に驚く方も多いのではないかと思います。平均の初産年齢も上昇の一途で、2014年時点で30・4歳にまで達しています。
高齢になってからの妊娠・出産リスクはあまり詳しくは知られていないように思います。表に主だったものをまとめてみました。いずれの項目でも35歳以上では高リスクとなっています。
母体死亡率は35歳を過ぎると急激に上昇するというデータもあります。また、妊娠する率は20代前半が最も高く、その後は加齢とともに下がりますし、不妊治療の成功率もやはり加齢とともに低下します。
「結婚適齢期」という言葉はもはや死語になりましたが、データを見る限り、生物学的な「出産適齢期」は厳然と存在し、それは20代~30代前半と言って差し支えないと思います。ただし、これも個人差が大きく、平均年齢まで全ての人が生きられないのと同じように、それがいつ頃なのかは誰にも分からないのが難しいところです。
若い女性の皆さんご自身が、いつまで妊娠・出産が可能なのかを知っておくことは、人生設計・キャリア形成を考える上でも、とても大切なことだと思います。ただ、この連載を見た方が「やっぱりお産は若い頃の方が良いみたいだよ」などと、当事者の女性に決して言ってほしくないという思いもあります。
そもそも、なぜ妊娠・出産の時期は高齢化しているのでしょうか?これもまた、個人の事情で大きく異なる部分もあると思いますが、妊娠・出産による退職が極めて高率である現実を考えると、その前に一定のキャリアを積んでおきたいと考え、結果として高齢となるのは当然のなりゆきにも思えます。
マタニティハラスメントに象徴されるように、働く女性が妊娠・出産し、さらに育児を始めることは、職場の中で必ずしも歓迎されない現状があります。
職場の同僚や部下の女性に赤ちゃんが生まれたら、「おめでとう!」と一緒に喜ぶのが人として当たり前ではないかと思うのですが、今の世の中はどうもそうなっていないようです。「彼女が抜けた穴をどうやって埋めようか?」「誰がその分を負担するのか?」。祝福どころか、迷惑と言わんばかりのこんな会話も度々耳にします。
どうも社会がまだ、働く女性が妊娠・出産することを心から祝福できるほど成熟していないのかもしれません。ただ、この連載でもよく「社会」という言葉を使いますが、では「社会」とは一体誰のことなのか? それは私たちひとりひとりであるはずです。
「お産は若い方が良いみたい」という、余計なお世話になるアドバイスよりも、女性の妊娠・出産年齢の高齢化は、私たちひとりひとりに責任があると自覚することの方が大切なのではないでしょうか?