2016.03.17
東奥日報夕刊の連載 「知ってほしい赤ちゃんのこと」 は今週月曜日が30回目でした。
今回は胎児の「出生前診断」、特に最近話題のいわゆる「新型出生前検査」に関して取り上げてみました。文字数の関係もあって、今回はまずその概要に関して述べてみました。
以下、本文です。
今回は胎児の「出生前診断」がテーマです。
近年、母体からの採血のみで胎児の染色体異常をある程度把握することができる「非侵襲的出生前遺伝学的検査(noninvasive prenatal testing:NIPT)」が開発されました。一般的には「新型出生前検査」とも呼ばれます。最初に一般報道されたのが2012年なので、ご存じの方もいらっしゃるかと思います。この検査法を巡っては、前回紹介した近年の妊娠・出産の高齢化と共にクローズアップされる一方で、「命の選別につながるのではないか?」との懸念も耳にします。
ヒトの遺伝情報は、身体を構成する細胞核にある染色体という「入れ物」に格納されています。染色体は22対の常染色体44本と、性別を決定する性染色体1対2本の合計46本で構成されています。この検査は、胎児の染色体異常の中でも染色体の本数の異常で、なおかつ発生頻度の高い21番目、18番目、13番目の染色体の数的異常のみを見つけることが目的です。一般的な染色体検査では、白血球中の細胞核にある染色体の本数を直接調べます。それに対し、この検査では母体血中に微量に存在する胎児のDNAの断片量を積算することで、何番目の染色体の本数が多いのかを見つけます。
出生前検査には、おなかに針を刺す羊水検査のように、リスクを伴うけれども確定診断ができるものと、その前段階で羊水検査が必要かどうかの「ふるい分け」を目的としたスクリーニング検査があります。新型出生前検査は、後者のスクリーニング検査に含まれます。2012年の報道では「精度99%」と、かなり正確性の高い検査であることが報じられましたが、あくまで従来のスクリーニング検査との比較であって、確定検査ではない点が重要です。しかも、対象となる妊婦さんの年齢やその他の原因によって、検査結果の正確性に違いが出るという問題もあります。
前回も述べたように、染色体異常は高齢妊娠になるほど確率が高くなります。例えば、21番目の染色体の本数が1本多い21トリソミー(ダウン症候群)の場合、20歳代の妊婦さんでは約1000分の1の確率ですが、40歳代になると約50人に1人の確率まで跳ね上がります。年齢による染色体異常発生率の違いは、スクリーニング検査で見分けられる確率にも影響を与えます。この検査を受けて結果が陽性と出た場合、最終的に本当に21トリソミーである確率は40歳代では95%程度と高率ですが、20歳代の方であれば陽性でも50%程度に留まります。
一方、陰性の場合で本当に21トリソミーでない可能性は、40歳代で約5000分の1ですので、確定診断とは言えなくてもかなりの正確さです。こうした背景から、この検査法の対象は、35歳以上の高齢妊娠の方や、超音波検査やその他の胎児診断法で染色体異常が疑われた方などに限定されています。
この検査で陽性になると、確定診断をするためには羊水検査のようなリスクを伴う検査が必要となります。20歳代のように発生頻度がきわめて低い世代の場合、偽陽性例が多くなりますので、結果として羊水検査を受ける人が増えることで、その合併症として流産や早産も増加することへの危惧が、検査対象を絞る一つの理由となっています。
次回は、この新型出生前検査を取り巻く現状や課題などを述べてみたいと思います。