2016.11.10
当院の院内広報誌である「ふれあい」で成育科のご紹介をさせていただきました。
以下、本文です。
当院では平成28年度から総合周産期母子医療センターに新たに「成育科」を新設しました。
「成育科」と言うと聞き慣れない方も多いかと思います。「成育医療」を辞書で調べると「胎児にはじまり新生児・小児・思春期を経て、次の世代を生み育てる成人世代までの一連の過程における、身体的・精神的問題を扱う医療」とあります。つまり、周産期医療に始まり、そこで救命されたお子さん達のその後の発育・発達からその先の人生への橋渡しを担う医療と言い換えることができるかと思います。
かつて本県の乳児・周産期死亡率は全国最下位クラスでしたが、近年は劇的な改善を遂げました。最大の要因は1000g未満で出生した超低出生体重児の救命率の向上で、平成25年には年間死亡例数がついにゼロとなりました。
さてその一方で、救命された超低出生体重児のお子さん達が皆さん何ごともなく育ってくれれば良いのですが、そう簡単にはいきません。生死の境をギリギリのところで救命されたお子さん達です。それは救命センターに搬送されICUで集中治療をされた成人の患者さんが、皆さん何ごともなかったかのように普通に社会復帰できるわけではないのと同じことです。全国的な予後調査でも3歳時点の発達評価で正常範囲と言えるお子さんは超低出生体重児で半分弱、出生体重が1000g以上1500g未満のお子さんでさえ2/3程度に留まります。
未熟性に限らず周産期に起因する後障害は、脳性麻痺に代表される身体障害のほか、知的障害、視覚・聴覚障害、自閉症・多動症などの発達障害に加え、近年では医療的ケアを要する小児在宅医療のお子さんも増加傾向です。障害の程度や組み合わせは様々で、その支援もまたひとりひとりの状況に応じたものである必要があります。特に就学前の療育と支援は非常に重要です。支援の先には就学があり、就学後も様々な問題を抱えるお子さんが少なくありません。
支援の第一歩として当院では臨床心理士による定期的な発達評価を行っています。その結果を元にその時々でどのような支援が必要かを検討しますが、支援のリソースは地域によってもその事情が異なります。県内各地でどのようなお子さんにどのような支援が提供可能なのか、その全体像はいまだ把握し切れていません。介護保険の枠組みであればケアマネさんの担当でしょうが、後障害を持ったお子さん達にケアマネさんはいません。ご家族が少ない情報を頼りに必要な支援を探されているのが実情です。
そもそもこの分野は小児医療の中でもこれまであまり重視されることがありませんでした。また、患者さんが必要とする支援は年齢とともに変化し続けるため、患者さんからの「声」がまとまりにくいという特徴もあります。「成育医療」の先駆けとなった国立成育医療研究センターのホームページには「私どもは子どものためのアドボカシー(advocacy:自己主張できない存在の代わりになってその存在のために行動をおこすことをアドボカシーと言います)の理念を持つことが基本と考えます。」とあります。これまでも発達外来として退院後のフォローアップはしてきましたが、患者さんの「声なき声」を代弁するという意味においてはここで新たに独立した診療科を立ち上げる必要があると考えたことが「成育科」誕生の背景です。まだまだ手探りの状態ではありますが、退院後の生活への包括的な支援体制の構築のため、関係する各諸団体との緊密な連携も目指して行きたいと考えています。
青森県立中央病院総合周産期母子医療センター
成育科 部長 網塚 貴介
(文責 成育科 網塚 貴介)