2018.02.06
昨年のある日、病院電話交換手の方から「フランス大使館からお電話が入っています」との連絡が。そんな訳があるはずがないと半信半疑でお電話に出たところ、フランス大使館の貿易投資庁を担当されている方とのこと。ますます訳が分からずお話しをうかがってみると、昨年、ITvision誌と言う医学雑誌に投稿した「 タブレットPCを活用したNICU部門システムの概要と将来的展望 」と言う記事を読まれたフランスの会社の方が当院のNICU部門システムにご興味を持たれているとのことでした。その会社は Logipen社 という会社で、元々はフランスの新生児科医と言うよりも、フランスの新生児学会の会長をされていたGouyon先生がNICUにおける薬剤投与をより安全に行うためのシステムを作るために設立した会社なのだそうです。
そうした経緯で、先週金曜日に同社のGouyon先生とスタッフの皆さんが青森にある当院にまでお越し下さいました。
まずは当院のNICU部門システムを昨年の記事に沿ってご紹介して行きました。その内容は以前、このブログでもご紹介しています。詳しくは以下の記事をご覧下さい。
ITvision誌No.36~タブレットPCを活用したNICU部門システムの概要と将来的展望
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月刊「新医療」にNICU部門システムの紹介をしました
(クリックすると記事にリンクします。)
当院のNICU部門システムは既存の電子カルテを単に導入したのではリスクが上がってしまうことを避けるため、基本的に医療安全を最重要視したシステムとなっています。それは注射・処方だけではなく母乳を含むあらゆる臨床場面での患者認証や、注射オーダー時の入力間違いを防ぐために様々な工夫を凝らしてきました。
次にLogipen社のシステムに関してのご説明をいただきました。まずこうしたシステムの必要性に関しては、これは問題意識としては私たちと同様で、NICU入院中のお子さんへの薬剤投与に関しては成人とは異なるリスクがあることを前提とした上で、それを打開するためのシステムが必要であるとの認識から始まっています。この点に関しての問題式は万国共通なのだとも感じました。
Logipen社のシステムは注射等の処方時におけるリスク管理を中心に据えたシステムで、それは一つの施設の安全管理に留まらず、全ての導入施設での情報を中央に吸い上げ、それを解析することによって、そのデータベースから薬剤の適正使用などにも役立てようとするシステムなのだそうです。下の写真は抗生剤のゲンタマイシンの処方例ですが、在胎週数や日齢を入力すると推奨される投与量が表示されます。当院のシステムではあくまで誤った処方が入力できないようにチェックするシステムですが、Logipen社のシステムでは推奨量が表示されると言う点が最も異なると感じました。
実際に投与量を入力していくと、何をどれだけの内容で注射薬を作成するかまでが自動的に表示されます。当院のシステムでは、まず入力するとその後に実際の投与量が表示されますので、これもシステムのコンセプトの違い思います。
お互いのシステムを説明し合った後、NICUも見学していただきました。Gouyon先生からは「素晴らしいNICUですね。」とお褒めの言葉もいただくことができてとても嬉しく思いました。
上でご紹介した「 月刊「新医療」にNICU部門システムの紹介をしました 」では、最後の将来的な可能性に関して「当院のシステムではパラメータを設定すれば患者情報を匿名化した上でcsvファイルとして書き出しが可能であり、ほんの数分で膨大なデータの比較が可能となっている。こうした機能を全国のNICUに導入し、データ収集を行い解析することができれば、どのような傾向を持つ施設の成績が優れているのかも瞬時に判明することであろう。今後はこうしたビッグデータを活用することによって、前方視的でもなく後方視的でもない『リアルタイムスタディ』によるエビデンス構築が可能となるのではないかと考えられる。」と述べました。今回、このお話しもGouyon先生にしたところ、「まさに私たちがやろうとしていることだ。」とのお返事でした。遠い海の向こうで全く同じ思いで精力的にお仕事をされている先生に実際にお目にかかることができてとても刺激的で幸せなひとときでした。今後、フランスだけではなく、日本を含めた世界中でこうした動きが進んで行くことを心から願っています。
(文責 成育科 網塚 貴介)