2016.12.24
横浜で講演ダブルヘッダー&「逃げ恥」ロケ地巡り の続きです。

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今回は「NICUにおける母子分離軽減~日本における問題点と可能性」と題してお話しさせていただきました。内容的には今年7月の富山での 日本周産期新生児学会教育セミナー のフルバージョン的で、当院の直母外出の取り組みに始まり、 今年5月にオランダで見学させていただいた2施設 のことも教育セミナーの時よりも詳しくお話しさせていただきました。





当院の直母外出の詳細は以下の本に詳しく掲載されていますので、是非、ご参考にしていただければと思います。

ここからが本論です。
オランダのOLVG病院の看護スタッフの人員配置は、最重症のNICUやMFICU対象の患者さんこそ看護師さん一人あたり1~2人と日本とは比べものにはなりませんが、中等症以下の患者さんの配置は日本とそれほど大きな違いはありません。むしろ違いで大きいのは病室の面積です。日本の病室面積基準は成人でも決して広いとは言えませんが、小児病棟ではさらにその3分の2の面積でも良いことになっています。NICUには1床あたり7㎡という面積基準があり、それでも海外の施設と比べると話にならないぐらい狭いのですが、GCUに至っては狭い病室に所狭しとコットが並ぶ光景が当然のようになっています。
これではご両親と一緒にいるスペースどころの話ではありません。
個人的には、この小児入院患者に対する面積基準が、GCUにおけるファミリーセンタードケアを進める上でも、また小児病棟においてご家族が付き添いする上での環境の悪さや、その逆に小児病院ではご家族が付き沿う場所すらないこのなど、全ての元凶となっているのではないかと考えています。
以前から「一人飲み」に着目して我が国の現状を調べてきましたが、実はこの「一人飲み」とファミリーセンタードケアは表裏一体なのではないかと考えています。
当院では直母外出によって、特にLate preterm(後期早産)児の入院期間がかなり短いのが特徴です。一方、「一人飲み」をしている施設も全国の半数ほどあるのですが、そもそもスタッフが抱っこする必要もなくほ乳瓶を立てかけて哺乳ができる赤ちゃんがなぜ入院していなければならないのか?と言う素朴な疑問が起きてしまいます。
そんなに哺乳が上手なら退院できるはずなのでは?
それが退院できないのは、とりもなおさずご家族の方の準備ができてないのが理由なのでは?
と思うのです。しかし、ご家族に退院準備をしてもらうのにも人手がかかります。つまり看護スタッフの人員配置不足は入院期間の長期化の原因となっている可能性があるのではないかと言う話を、勉強会後の懇親会でしていました。制度を変えるにはそれなりの根拠が必要です。今後は、こうしたことも検討材料とした上で適正な看護師配置を目指して行く必要があるのではないかと考えています。
(文責 成育科 網塚 貴介)

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2016.10.26
先週末はみやぎ母乳育児をすすめる会 総会にお招きいただき「早産児の入院と母子分離~その解決策を考える~ 」と題してお話しさせていただきました。内容は今年の 第52回日本周産期・新生児学会のランチョンセミナー でお話しした、当院で取り組んでいる「直母外出」や、さらにFamily Integrated Careへと続くオランダでの取り組み、そして先日の 東奥日報連載37回目~広がる家族中心のケア でご紹介した家族中心のケアを阻む制度上の問題などに関してお話しさせていただきました。

今回の勉強会の講演の第一弾は、昨年5月に弘前で開催された 東北母乳の会 でもご講演いただいた青葉達夫先生に「1歳半から3歳までの食事~離乳食完了後から幼児期まで ~」と題してご講演いただきました。離乳食を進める上での様々な情報が満載でとても勉強になりました。


続いて講演2です。

いつも伝えたいことは同じです。一つは「適切な授乳援助は赤ちゃん達の持つ『力』を引き出しているのかも知れない」、逆に言えば「赤ちゃんとお母さんを引き離すケアは赤ちゃんの持つ力を削いでしまっているのではないか?」と言うことと、

そして「赤ちゃんとお母さんが一緒にいるのは普通のこと」であり、しかしそれを取り巻く環境に様々な制約はあるけれども知恵を出し合えばいいアイデアが生まれるかも知れないのでは?と言う2点だけです。

ファミリー・センタード・ケアに関しては先日もご案内したように12月には 神奈川県立こども医療センターでの講演 も予定されていますが、もうこの春以降はNICUに関わっていない身でもあり、こうした講演も次回の横浜が最終回になるのではないかと思います。これから先は現役の皆さんの力で突破口を切り開いていって欲しいと切に願っています。みやぎ母乳育児をすすめる会の皆様、貴重な機会を頂戴しありがとうございました。
(文責 成育科 網塚 貴介)
2016.10.21
今年2月の 神奈川県立こども医療センター勉強会での人工呼吸管理に関する講演 に続いて、今年12月22日(木)には今度は「NICUにおける母子分離軽減〜日本における問題点と可能性」と題してお話しさせていただくことになりました。神奈川県立こども医療センターでは以下のご案内のように新生児医療の様々な分野の先生達をお招きして頻繁に講演会を開催されています。この中に加えていただいてとても光栄に感じます。
内容的には今年7月の 日本周産期新生児学会のランチョンセミナー でお話しさせていただいたFamily Integrated Careの話題に加えて、当院の「直母外出」の詳しいところと、日本の周産期医療における枠組みの中でどうしたらFamily Integrated Careを進めることができるかに関してもお話しさせていただきたいと思っています。個人的にはクリスマスの時期に憧れの横浜にお邪魔できるのもとても楽しみにしています。

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(文責 成育科 網塚 貴介)
2016.10.20
東奥日報夕刊の連載 「知ってほしい赤ちゃんのこと」 は今週月曜日が37回目でした。今回はFamily centered careを取り上げてみました。
この連載の文字数は大体1500字ぐらいなのですが、一般の方を対象に書くことの難しさを再認識した回ともなりました。学会等であればFamily centered careがどんなものなのか、NICUに入院すると母子分離せざるを得ない、と言う共通認識の元で発表しますが、今回は特に「母子分離」の言葉を使えなかったのが辛いところでした。まずはご覧いただければと思います。

以下、本文です。
赤ちゃんがNICU(新生児集中治療室)に入院すると、どうしても赤ちゃんとお母さんは離ればなれになってしまいます。ご家族、特にお母さんにとっては、通常の産後とは違う環境になるため、イメージしていた姿とのギャップを感じられることもしばしばです。
このことは、私たち医療者がつい「軽症だから」と考えがちな、ちょっとだけ早く小さめに生まれた早産児の赤ちゃんの場合でも例外ではありません。こうしたご家族の不安や葛藤に対して、新生児医療の現場では軽減のために様々な取り組みがされています。今回はそうした取り組みを紹介したいと思います。
かつて新生児医療では赤ちゃんの救命にのみ注力するあまり、赤ちゃんとご家族との関係に無頓着だった時期がありました。しかし、近年はその反省から、ご家族を赤ちゃんのケアの中心にしようという動きが活発で、これを「ファミリーセンタードケア(Family centered care)」と呼びます。
NICUに赤ちゃんが入院すると、ご家族は面会に通い、ある程度大きくなると退院指導を受けて自宅に帰るという流れがあります。確かに面会に来れば赤ちゃんに会うことはできますが、一方で治療中の赤ちゃんに対してご家族ができることは少なく、その場で時を過ごすことは無力感や将来への漠然とした不安、時には「どうしてこうなってしまったのだろう?」というような、ネガティブな気持ちに押し潰されそうになりがちです。
しかし同じ面会でも、ただ赤ちゃんを眺めるのではなく、ご家族でも可能なケアを行うことができればどうでしょうか? 全身状態の不安定な生後早期の急性期では難しくても、栄養を注入できる時期になれば母乳をゆっくり注入したり、もう少しすればおむつ交換もできるようになるかも知れません。
ご家族が行うことのできるケアの範囲が日々広がっていくことや、その過程で次第に赤ちゃんの変化を感じることができれば、ご家族も自分たちが「育っている」ことを実感できるのではないかと思うのです。
こうした取り組みは全国で広がりつつありますが、一方でそれを阻む要因も多々あります。
一つは、前回ご紹介したNICUにおける看護スタッフの人員配置不足です。ご家族にケアに参加してもらうにも、何でもやってみれば良いわけではなく、ケアに対するご家族の理解を深める必要がありますし、またそれぞれのご家族が次に何が可能か、今どの段階なのかも把握しておく必要があり、そのためにはやはり、それなりの人員が必要です。
また、もう一つの大きな要因はNICUの面積です。日本のNICUは非常に狭く、ご家族が赤ちゃんと一緒に過ごすにも、スペースが非常に足りないのが一般的です。この点に関しては、最新のNICUでは病室を個室化したり、ご家族のためのスペースを広く取る施設が増えています。
また、呼吸障害のない、ちょっとだけ早く生まれた早産の赤ちゃんで、もし赤ちゃんとお母さんが一緒に入院患者さんとしてケアできる病棟があれば、そもそも赤ちゃんとお母さんは離れなくて済むはずです。実は、海外の施設では母子をともに入院患者さんとしてケアできる施設がすでに存在します。
日本では、産科病棟とNICUが制度上も区分けされているので、こうした対応を取ることが難しいのが現状です。しかし、ファミリーセンタードケアの観点から、周産期医療体制を大枠から考え直さなければならない時期にさしかかっているのではないかとも考えています。
(文責 成育科 網塚 貴介)
2016.09.20
第31回日本母乳哺育学会の2日目午前中にはシンポジウムⅡ「NICU での母乳育児支援」があり「NICU における搾母乳に対する安全管理対策」と言うタイトルでお話しさせていただきました。一番最後に抄録を載せてあります。


先日もご紹介したように、当院のNICU部門システムでは全国でもいち早く母乳に対する患者認証機能を導入しています。その詳細は「新医療」 でも紹介していただきましたが、今回のシンポジウムでは当院の部門システムを簡単にご紹介した上で、現在進行中である最新機能に関してもご紹介しました。以下に、スライドのいくつかをご紹介します。

当院のNICU部門システムは以下の抄録にもあるように2006年から導入され、導入当初より注射・処方だけではなく、コストが反映されない母乳に関しても患者認証を行っています。2009年の信州フォーラムの企画セッション「あなたの電子カルテは安全ですか?」での発表の再、全国の施設にアンケート調査をさせていただきました。この時点で栄養も含めた患者認証が行われていた施設はたった3施設に留まっており、当院での導入後にいろいろな会社の方が見学に来られていたことから考えても、おそらく当院での母乳の患者認証は全国で最も早かったのではないかと思います。ちなみに下のスライドにある全ての細項目まで満たした2施設の一つが当院でした。


当院のNICU部門システムでは、担当看護師さん、患者さん、そして投与される薬剤や母乳の3者認証がされるようになっています。


栄養も同様で、母乳・人工乳には全てバーコードが取り付けられています。また最近では赤ちゃんがNICUに入院した場合、産科病棟のお母さんに予め母乳用のバーコードをお渡ししておくことで、新鮮な搾母乳でも患者認証が可能となっています。


ただ、ここまでやっていてもまだまだ完全ではありません。母乳パックから哺乳瓶への詰め替えはフリー業務の看護師さんが担当していますが、哺乳瓶への詰め替え作業では「人の眼」による目視確認しかできないのが現状です。

そこで、このエラーリスクを軽減させるため、母乳パックから哺乳瓶に移し替える時点で母乳パックと空瓶が合致しているかを確認するシステムを近い将来に導入する予定となっています。

そもそも医療現場は「確認、確認」の繰り返しが常です。抄録にも書きましたが、「Aは本当にAなのか?」と言うのはまさに「哲学的」とも言える課題です。

多くの場合、二人のスタッフが確認し合うダブルチェックによる確認が多くの施設で行われていますが、人が行う行為である以上、一定の確率でのエラー発生は統計的にも不可避です。この不可避なエラーリスクをいかに軽減させるかが医療現場における大きな命題でもあります。

「人の眼」によるダブルチェックに頼るのではなく、可能な限り医療現場における確認作業には「機械の眼」、すなわちバーコードであったりQRコードであったり、そうした技術を融合させることが安全税の向上に寄与するものと信じています。

導入するには高額なシステムではありますが、どこのNICUに入院しても安全な医療を受けられるようになることを願っています。

以下、抄録です。
第31回日本母乳哺育学会
シンポジウムⅡ NICUでの母乳育児支援
「NICUにおける搾母乳に対する安全管理対策」
青森県立中央病院総合周産期母子医療センター
成育科 網塚 貴介
母乳には多くのメリットがある反面、体液としての母乳は、特に患児自身の母親以外の母乳が与えられた場合には感染源ともなり得る。NICUにおいて搾母乳の取り違いはこうした感染のリスクや、さらには母親の心理的な側面からも絶対に避けなければならない。従来、多くの施設ではダブルチェックなどによる安全対策が行われてきたが「人の眼」による確認には自ずと限界もある。
当院NICUでは2006年10月より院内全体に電子カルテが導入された。既存の大手ベンダー企業による電子カルテシステムは、特に医療安全面で大きな問題があることから当院独自でNICU部門システムを開発し導入した。特に医療安全面を最重要視し、注射・処方のみならず、コストに反映されない母乳にもバーコードによる個人認証を可能とした。おそらく全国のNICUで最も早く母乳認証を導入したのが当院なのではないかと思われ、当院の部門システム開発後には、全国の施設やNICU部門システムを持つ企業からの見学が相次ぎ、現在では他企業のNICU部門システムでも母乳認証機能は徐々に普及しつつあるようである。
当院のNICU部門システムでは、母乳や人工乳に予めバーコードが貼り付けあり、赤ちゃんに授乳する直前に、1) これから授乳させる看護師さんのバーコード、2) 赤ちゃんのベッドのバーコード、そして3)ほ乳瓶に付いているバーコードの3つを読み込むことによって、「誰が」「誰に」「何を」飲ませるのかを確認できるようになっている。本システム導入により母乳の取り間違いは激減し、完全に100%ではないものの母乳間違いインシデントをみることはほとんどなくなっている。
さらに今年からは、冷凍母乳にもバーコードを貼付し、調乳前の時点での母乳取り違いのチェック機構も導入した。これによって、さらなる安全性の向上が期待できると考えられる。
医療現場における「確認」は、一見簡単なように見えて実はかなり難しいものである。「人の眼」に頼る限り、「Aは本当にAなのか?」と言う「哲学的」とも言える課題に直面する。複数の看護師による指さし確認する「ダブルチェック」においても、二人がかりにも関わらず意外に見逃されることも多く、医療現場での確認作業は「機械の眼」によるシステムを使った方がより確実な確認作業が可能になると考えられる。今後、こうした安全機能がさらに進化し、他の施設でも一般的になることが望まれる。
(文責 成育科 網塚 貴介)