先週末は毎年長野県大町市で開催される新生児呼吸療法モニタリングフォーラム(通称:信州フォーラム)に参加するため長野県大町市に行ってきました。信州フォーラムと言えば、5年前の帰り道で遭難しかけたことを以前ご紹介したことがあります。
2014/2/14 信州フォーラム旅日記 番外編
ちょうど平昌オリンピックで金メダルを取った小平選手の出身地である茅野市を過ぎたあたりが4年前に遭難しかけたところでした。
昨年のこのブログでも「昨年が最後」と言いながら今年も参加と書いているように、NICUには関わっていないので「毎年、今年が最後」と言いながらも今年もまた6時間かけていつもの会場にやってきました。完全に「もう行かない詐欺」みたいになってます。

今年は青森市内も比較的雪の少ない冬でしたが、長野の方はもっと少なくてびっくりしました。毎年恒例の雪だるまも心なしか力ない感じです。雪が少ないので作るのは大半だったのではないかと思います。

会場に到着してすぐに、昨年度まで当院で初期研修をされていた森川先生にも久しぶりにお会いできました。

今回の信州フォーラムでは初日の最終セッションで「HFO再考」と題したセッションのモデレーターを仰せつかってやってきました。

最初の演者はピストン式HFOの開発社・発明者であり、メトラン社の創業者であるフック会長から、HFOの開発の歴史に関してお話ししていただきました。我々世代はHFO開発の歴史秘話を先輩世代の先生方から直接聞いていましたが、NICUで働き始めた最初の頃からHFOがあった若い世代の方達、つまり「HFOnative世代」の方達にとってはあまり知られていないお話のようにも思います。それこそ紆余曲折の末に今の形に辿り着いたのですが、そこに至るまでの過程はそれこそ今の朝ドラ「まんぷく」の萬平さんを彷彿とさせるものでした。

次の演者は一昨年の夏に見学させていただいた埼玉県立小児医療センター新生児科の小林早織先生で、HFO下における「経肺圧」を中心としたお話をしていただきました。今回のご発表は確か一昨年の日本新生児成育学会のポスター発表でHFOにおける経肺圧の意義に関しての考察が非常に興味深かったので演者としてお願いしました。一言で言えば、HFOに限らず人工呼吸管理中には、肺にかかっている圧は人工呼吸器からの陽圧だけではなく、胸腔内圧との差である「経肺圧」がかかっているのですが、それは例えば自発呼吸下であれば自発の吸気・呼気それぞれで圧が変動し、なおかつそれが極端な場合にはコンプライアンスにも影響があると言うお話でした。もっと具体的には、例えばHFOで人工呼吸管理しているのに強い自発呼吸が出ているようなお子さんの場合、肺にかかっている圧は本来のMAPよりも低かったり高かったりすると言うものです。

3番目には、こちらも一昨年の冬に見学させていただいた東京女子医科大学八千代医療センター新生児科の佐藤雅彦先生から、HFVにおける肺容量と換気量に関してご講演いただきました。佐藤先生は、今や全国の新生児科医師の中でおそらく最も人工呼吸管理に関しての造詣の深い先生で、このご講演の内容も目からうろこというか、とにかく圧巻の一言でした。例えば最初のフック会長のご発表で、昔、HFOの波形を吸気:呼気の比率を1:1ではなく1:2とかいろいろ変えてみたことがあったが、それでは実際に肺にかかる圧が下降してしまい、そこで現在の1:1に辿り着いたとのお話がありましたが、佐藤先生のご発表の中で、この比率が1:2では吸気フローが呼気フローよりも多いため圧力降下が生じる原理を数式を使って見事に説明して下さいました。

3人のご発表後の会場とのディスカッションもかなり盛り上がりました。

発表を全部終えての集合写真です。いいセッションになったと自画自賛して終えました。

さて信州フォーラムと言えば、宿は温泉旅館ですので、毎年「部屋飲み」があちこちで行われます。今年は初日の夜は同年代で仲良しの先生達と一緒に夜中まで語らいあいました。

2日目の懇親パーティの後もまたさらに大勢が集まりこんな感じに。埼玉医科大学総合医療センターの須賀さんが持ってきてくれた美味しい日本酒もあっという間でした。


「今年で最後」と言いながらも、なんかこの先もしばらく毎年参加するのかも?と思いながらの3日間でした。

(文責 成育科 網塚 貴介)

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この週末は兵庫県立こども病院を会場にした第268回兵庫県未熟児にお招きいただき早産児の人工呼吸管理に関してお話しさせていただきました。兵庫県立こども病院は2016年に新築移転されたばかりでとてもきれいな建物です。写真には写っていませんが、写真左手前には東京インテリア、右手前にはイケアと、青森ではお目にかかれないような大規模な家具屋さんが両隣に立ち並んでしました。

懇談会の会場入り口近くに模型がありました。

今回座長も務めていただく新生児科部長の芳本誠司先生にNICUをご案内していただきました。

NICUだけで21床あるそうで本当に巨大なNICUです。広すぎてとても1枚の写真には収まりきれません。

こちらはNICUに隣接した手術室です。特に先天性横隔膜ヘルニアの治療に威力を発揮されているそうです。さすが国内有数の手術件数を誇る小児病院のNICUと感じました。

NICU内には5~6室の個室もありました。

こちらはGCUです。GCUも広すぎて写真に収まり切りません。

見学を終えて懇談会会場へ。実は今回、この懇談会にお招きいただけたのは、2017年4月に兵庫県立尼崎総合医療センターで開催された阪神小児循環器疾患研究会で人工呼吸管理のお話しをさせていただいた際、吉本先生や神戸大学の藤岡先生が参加されていたのがきっかけだったそうです。


懇談会終了後、以前当院に勤務されていた麻酔科の鹿原先生からお声がけいただきました。現在は兵庫県立こども病院でご勤務されていて、今回の懇談会を聞きに来て下さったそうです。本当にお久しぶりで懐かしかったです。

神戸と言えば夜景が有名です。懇談会から懇親会への移動中、道路から神戸港のきれいな夜景が目に飛び込んできました。思わずシャッターを切ったのですが、高速で移動する車からの撮影ではここまでが限界でした。手ぶれでボケボケ写真ですが、本当に息をのむほどのきれいな夜景でした。

懇親会終了後に兵庫県内の先生達とご一緒に。皆さんは神戸大学小児科の同門だそうですが、新生児医療に携わっていた者にとっては神戸大学と言えばUBアナライザーを開発された中村肇教授時代の印象が何より強烈です。個人的にはその昔、若かりし頃に新生児黄疸管理でUBアナライザーの光線療法開始基準が低いのでは?と感じ、兵庫県で学会があった時に中村教授に治療基準に関して直接質問させていただいたことがありました。その時、たかだか卒後3年の若造に気さくに色々教えて下さったのが今でも印象に残っています。そんなお話しをあれこれ交えながらの楽しいひとときでした。吉本先生ならびに兵庫県の諸先生、ありがとうございました。

NICUを引退して早いものでもうすぐ丸3年になろうとしています。それなのにこうしてお招きいただけるのは本当にありがたいことだと思う一方で、これまで何度もあちこちでお話しさせていただいてきた人工呼吸管理のお話しもそろそろ今回あたりが最終回かな?と思いながら、新神戸のホテルに戻って神戸の夜景を眺めていました。

(文責 成育科 網塚 貴介)

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新年あけましておめでとうございます。
新年早々ですが、昨年の日本新生児成育学会でのランチョンセミナー「PEEP再考」
の内容をあらためてまとめてみました。

まず、新生児蘇生法のアルゴリズムでは、心拍が100以上で自発呼吸があるけれども、努力呼吸とチアノーゼを認めるときには「CPAPまたは酸素投与」となっています。NCPR上では、このような場合どちらでもいいことになっていますが、この両者の持つ意味は同じなのでしょうか?


今回の「PEEP再考」では、ともに酸素化に寄与する「圧と酸素」は、実はこれは表裏一体で、最適なPEEP設定を知ることは酸素の使い方を知ることでもあると考えています。ではどうしたら至適PEEPが分かるか?それは酸素投与を最小限にしようと試みればPEEP設定は自ずと決まってくると言うのが今回のお話の中心となります。

まず酸素化は、肺胞中と肺動脈中の酸素分圧較差に加えて、酸素化には拡散面積も必要となることから、平均肺容量の維持もまた重要な因子となります。平均肺容量とは、例えば肺活量の図で言えば、大きく吸ったり吐いたり、または通常の呼吸をしている間の肺容量の時間での平均値を意味します。

ここで、NICUでは赤ちゃんが無呼吸になるとSpO2は一気に低下してアラームを鳴らしてご家族を驚かせますが、しかし大人が息を止めていてもSpO2で90%以下にするとなるとかなり苦しいことになってしまいます。

この違いは機能的残気量で説明が可能です。健康な成人ですと機能的残気量は息を止めてもそれなりに維持されますが、未熟児新生児の場合にはまだ肺容量は不安定なため、機能的残気量は文字通り「機能的」なので、その値は(実測は不可能ですが)大きく変動すると考えられます。

また少し話が飛んで、今度は肺に優しい呼吸管理に関して考えてみます。肺に優しい呼吸管理のためには、なるべく少ない1回換気量として肺の過膨脹による肺障害(Volutrauma)を防ぐ必要がありますが、それに加えて肺の虚脱を抑えて、過膨張と虚脱で生じるずり応力(Shear stress)による障害(Atelectrauma)も抑える必要があります。

人工呼吸管理中にPEEPが不十分だと、肺は虚脱と拡張を繰り返す度に痛んでしまいます。

こうした肺障害は適切なPEEPによって最小限にとどめることが可能となります。

これは感染予防のガウンですが、ここに袖を通そうとしたときに、こうした操作を何万回も行えばこのガウンがボロボロになっていくことは直感的に想像できるのではないかと思います。これこそがShear stressに相当します。

ここで、仮に十分なPEEPがかけれられて、下のように袖を通す前から十分に拡張していれば、それほど痛まないのではないでしょうか?

先ほどの機能的残気量(FRC)のお話と併せると、未熟児新生児ではFRCは一定ではなく、かなりの幅でその容量が上下しており、FRC低下時、つまりSpO2低下時には肺は虚脱しており、その時のPEEPは仮にそれまでと同じ値でかけられていたとしても相対的には不十分になっているものと考えられます。

PEEPの目的は呼吸管理上の主目的は機能的残気量(FRC)の維持による酸素化の維持となりますが、それはマクロ的な側面であって、ミクロ的には肺胞虚脱の予防によって肺保護の目的も有していると言えると考えられます。

それでは適切なPEEPを設定するにはどうしたらいいのでしょうか?と言う最初の問いに戻ります。その鍵は冒頭に述べたように酸素の使い方にあります。

人工呼吸管理中、酸素投与を最小限に絞ろうとすることで至適PEEP設定は見えてきます。よく酸素毒性で肺障害が起こると言われますが、その中で特に30%以下の低濃度でのかなり部分は酸素そのものによる毒性よりもAtelectraumaによる肺障害がかなりの割合を占めるように思います。PEEPが不十分でも酸素濃度を上げれば酸素化は得られてしまいます。その状態では密かにミクロ的にAtelectraumaが進行していたとしても、それはマスクされてしまいます。

実際の臨床場面で分かりやすいのは抜管後にnasalCPAPになった場合ではないかと思います。

抜管後のnasalCPAPの設定で、例えば以下の設定ならどちらがいいでしょうか?この考え方から言えば、PEEPを6cmH2Oまで上げることで酸素を切ることができるなら、肺にとってはその方が必要なPEEPがかかっている状態と考えています。

ただし、高めのPEEPは循環動態にも影響します。HFOの時も同じですが、高めの圧をかけようとするときには腎血流や脳血流などの循環動態の評価も併せて行っていく必要があります。

繰り返しになりますが、呼吸管理において酸素投与とPEEP設定は表裏一体です。PEEPを知ることは酸素の使い方を知ることでもあります。是非、これまでの酸素投与法とPEEPの設定を見直してみていただければと思います。

(文責 成育科 網塚 貴介)

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日本新生児成育学会その2から続きます。学会2日目の医療安全シンポジウムが終わった直後はお昼からのランチョンセミナーで、この日はいわき共立病院の本田義信先生と2人での発表となりました。

まずこちらからは「PEEP再考」と題して、人工呼吸管理において基本的な設定ながら多くの先生方にとって悩みの種であるPEEPに関して解説してみました。この詳しい内容に関しては、また改めてまとめてアップしたいと思います。


続いて、本田先生からはHFO+CMVを使った呼吸管理に関してのご発表でした。本田先生のご発表では「311を忘れてはならない」との思いから「Iwaki Never Dies」と書かれた灯台のスライドが必ず登場します。

本田先生は以前からHFO+CMVの有用性を発表されており、今回はその集大成のご発表にも感じました。

スライドでは「エビデンスがなくてごめんなさい」とありますが、それはこちらも同じで、お互い東北の地方病院のNICUで「編み出した」と言っても過言ではない臨床現場からの発信の場になったと感じた今回のランチョンセミナーでした。
(文責 成育科 網塚 貴介)

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