2018.11.26
日本新生児成育学会(その1)の続きです。第63回日本新生児成育医学会学術集会の学会2日目は朝からNICUにおける医療安全に関するシンポジウムと教育講演がありました。

シンポジウムは私がトップバッターで、今回は「NICUにおけるインシデント分析~院内医療安全への参加のすゝめ」と題してお話ししました。

NICUが他の医療分野と比べて特殊なことは論を待ちません。基本的に医療に関するあらゆる環境が成人向けにできているので、新生児医療はこうした限られた条件下で行っていく必要があります。

中でも電子カルテに関する部分、特に指示出し・指示受けと言った基本業務に関わる部分に関して大手の電子カルテによる対応はまだまだです。当院のようにNICUの部門システムが導入されている施設であれば、以下のような様々な安全機能によってインシデントを未然に防ぐことも可能です。今回の発表を機に、過去5年間ほどのインシデント分析を行ってみましたが、やはり部門システムでカバー可能な部分に関してのインシデントは量的にも少なく、その「外側」にある部分の方がインシデントの割合が多い傾向が明確に示されました。

NICUにおける様々な業務の中でも栄養に関する業務は複雑を極めます。単に「気をつけましょう」ではなく業務の単純化ができないものかと今回改めて思いました。しかし、その一方で、こうした細やかな管理こそがNICUケアの真骨頂でもあり、このように感じてしまう自分がむしろ「現場感覚」を失ってきているのかと言う気もしました。

あれこれ過去のインシデント分析をしてみましたが、今回の分析はあくまでひとつの例に過ぎません。むしろ大事なことは、各施設においてNICU担当医師もしくはスタッフが院内全体のインシデント分析会議に出るようにするなど、自らのインシデント分析能力を向上させることにあるのではないかと考えています。医療安全の担当者からインシデントに関してあれこれ言われると「NICUのことも知らないのに」となりがちですが、そのように対立するのではなく、自らがインシデント分析会議に出ることで同じ土俵の上で議論できるようにしていくことが必要なのではないかということで発表を終えました。

次に、神奈川県立こども医療センターの猪谷先生からは医療機器の添付文書に関してのご講演がありました。医療機器の添付文書は医薬品と比べると目にする機会のない施設が多いようですが、医療機関の添付文書は何の前触れも連絡もなく書き換えられていることが多く、企業のホームページの当該医療機器に関する添付文書をあえて読みに行こうとしなければ、知らない間に通常使っている患者さんへの使用が極端な場合にはいつの間にか禁忌になっていたりと言うことがあり得るのだそうです。具体的な事例をまじえて分かりやすく教えて下さいました。

次に、同じく神奈川県立こども医療センターの臨床工学技士である松井さんからはNICUにおける電源に関してご講演いただきました。特に「アース」の意義について強調されており、また配電盤による電力量がかなり偏っている場合に関してなど、とにかく目から鱗のお話が満載でした。

シンポジウム後の教育講演では藤田医科大学病院で医療の質・安全対策部の安田あゆ子先生から「医療を安全にするための問題の見方」と題してご講演いただきました。実は安田先生は、以前、当院の医療安全研修会でインシデント分析に関してご講演して下さったことがありました。その内容があまりにも素晴らしく感動していたところに、ちょうど今回の学会企画のお話があり、真っ先に教育講演の演者として推薦させていただき、今回のご講演となりました。
安田先生はASUISHIプロジェクトと言って、名古屋大学医学とTOYOTAが共同で行っている『明日の医療の質向上をリードする医師養成プログラム(あすいし ASUISHI)』の主要メンバーとしてもご活躍されています。

シンポジウム終了後に演者の皆さんとご一緒に。皆さん、お疲れ様でした。

(文責 成育科 網塚 貴介)

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2016.09.20
第31回日本母乳哺育学会の2日目午前中にはシンポジウムⅡ「NICU での母乳育児支援」があり「NICU における搾母乳に対する安全管理対策」と言うタイトルでお話しさせていただきました。一番最後に抄録を載せてあります。


先日もご紹介したように、当院のNICU部門システムでは全国でもいち早く母乳に対する患者認証機能を導入しています。その詳細は「新医療」 でも紹介していただきましたが、今回のシンポジウムでは当院の部門システムを簡単にご紹介した上で、現在進行中である最新機能に関してもご紹介しました。以下に、スライドのいくつかをご紹介します。

当院のNICU部門システムは以下の抄録にもあるように2006年から導入され、導入当初より注射・処方だけではなく、コストが反映されない母乳に関しても患者認証を行っています。2009年の信州フォーラムの企画セッション「あなたの電子カルテは安全ですか?」での発表の再、全国の施設にアンケート調査をさせていただきました。この時点で栄養も含めた患者認証が行われていた施設はたった3施設に留まっており、当院での導入後にいろいろな会社の方が見学に来られていたことから考えても、おそらく当院での母乳の患者認証は全国で最も早かったのではないかと思います。ちなみに下のスライドにある全ての細項目まで満たした2施設の一つが当院でした。


当院のNICU部門システムでは、担当看護師さん、患者さん、そして投与される薬剤や母乳の3者認証がされるようになっています。


栄養も同様で、母乳・人工乳には全てバーコードが取り付けられています。また最近では赤ちゃんがNICUに入院した場合、産科病棟のお母さんに予め母乳用のバーコードをお渡ししておくことで、新鮮な搾母乳でも患者認証が可能となっています。


ただ、ここまでやっていてもまだまだ完全ではありません。母乳パックから哺乳瓶への詰め替えはフリー業務の看護師さんが担当していますが、哺乳瓶への詰め替え作業では「人の眼」による目視確認しかできないのが現状です。

そこで、このエラーリスクを軽減させるため、母乳パックから哺乳瓶に移し替える時点で母乳パックと空瓶が合致しているかを確認するシステムを近い将来に導入する予定となっています。

そもそも医療現場は「確認、確認」の繰り返しが常です。抄録にも書きましたが、「Aは本当にAなのか?」と言うのはまさに「哲学的」とも言える課題です。

多くの場合、二人のスタッフが確認し合うダブルチェックによる確認が多くの施設で行われていますが、人が行う行為である以上、一定の確率でのエラー発生は統計的にも不可避です。この不可避なエラーリスクをいかに軽減させるかが医療現場における大きな命題でもあります。

「人の眼」によるダブルチェックに頼るのではなく、可能な限り医療現場における確認作業には「機械の眼」、すなわちバーコードであったりQRコードであったり、そうした技術を融合させることが安全税の向上に寄与するものと信じています。

導入するには高額なシステムではありますが、どこのNICUに入院しても安全な医療を受けられるようになることを願っています。

以下、抄録です。
第31回日本母乳哺育学会
シンポジウムⅡ NICUでの母乳育児支援
「NICUにおける搾母乳に対する安全管理対策」
青森県立中央病院総合周産期母子医療センター
成育科 網塚 貴介
母乳には多くのメリットがある反面、体液としての母乳は、特に患児自身の母親以外の母乳が与えられた場合には感染源ともなり得る。NICUにおいて搾母乳の取り違いはこうした感染のリスクや、さらには母親の心理的な側面からも絶対に避けなければならない。従来、多くの施設ではダブルチェックなどによる安全対策が行われてきたが「人の眼」による確認には自ずと限界もある。
当院NICUでは2006年10月より院内全体に電子カルテが導入された。既存の大手ベンダー企業による電子カルテシステムは、特に医療安全面で大きな問題があることから当院独自でNICU部門システムを開発し導入した。特に医療安全面を最重要視し、注射・処方のみならず、コストに反映されない母乳にもバーコードによる個人認証を可能とした。おそらく全国のNICUで最も早く母乳認証を導入したのが当院なのではないかと思われ、当院の部門システム開発後には、全国の施設やNICU部門システムを持つ企業からの見学が相次ぎ、現在では他企業のNICU部門システムでも母乳認証機能は徐々に普及しつつあるようである。
当院のNICU部門システムでは、母乳や人工乳に予めバーコードが貼り付けあり、赤ちゃんに授乳する直前に、1) これから授乳させる看護師さんのバーコード、2) 赤ちゃんのベッドのバーコード、そして3)ほ乳瓶に付いているバーコードの3つを読み込むことによって、「誰が」「誰に」「何を」飲ませるのかを確認できるようになっている。本システム導入により母乳の取り間違いは激減し、完全に100%ではないものの母乳間違いインシデントをみることはほとんどなくなっている。
さらに今年からは、冷凍母乳にもバーコードを貼付し、調乳前の時点での母乳取り違いのチェック機構も導入した。これによって、さらなる安全性の向上が期待できると考えられる。
医療現場における「確認」は、一見簡単なように見えて実はかなり難しいものである。「人の眼」に頼る限り、「Aは本当にAなのか?」と言う「哲学的」とも言える課題に直面する。複数の看護師による指さし確認する「ダブルチェック」においても、二人がかりにも関わらず意外に見逃されることも多く、医療現場での確認作業は「機械の眼」によるシステムを使った方がより確実な確認作業が可能になると考えられる。今後、こうした安全機能がさらに進化し、他の施設でも一般的になることが望まれる。
(文責 成育科 網塚 貴介)
2016.06.18
しばらく前に 月刊「新医療」 と言う雑誌から「特定診療科専用情報システムの有用性を知る」と言う特集を組むとのことで、NICUにおける部門システムに関する執筆依頼がありました。タイトルは「医療安全を重視したNICU部門システム開発・導入の概要と将来的展望」で、シリンジポンプの流量認証からビッグデータによるリアルタイムスタディの提案まで含めて「NICU部門システムかくあるべし」と言う思いをぶつけたつもりです。ご覧いただければ幸いです。

「医療安全を重視したNICU部門システム開発・導入の概要と将来的展望」
◆当院NICU部門システムの特徴
1)部門システム導入の背景と開発コンセプト
当院のNICU部門システムの特徴としては、①入力端末には電子カルテ端末を兼用し、院内どこでも指示出し・閲覧が可能、②LAN接続されたタブレットPCによりリアルタイムの指示伝達が可能(図1)、③点滴コーナーではタブレットPCで指示確認するため転記が介在しない、④リスクマネジメント上、注射・処方のみならず、コストに反映されない母乳にもバーコードによる個人認証が可能、⑤ソフトウェアはMicrosoft Internet Explorerを使用しており特殊なソフトウェアはインストール不要で比較的安価にシステムが構築できる、などの特徴を有している。さらに近年のバージョンアップでは、患児の状態を把握する上での評価ツールや、診療成績の全国集計および臨床上のパラメータを患者情報を匿名化した上で抽出する機能なども加えられている。

図1
2)医療安全機能
医療安全機能は大別して1) 患者認証機能、2)指示入力支援および制限機能、3)その他の機能から構成される。
①患者認証機能
NICUではタブレットPCが患者と1対1で配置され(図2-1)、医師の指示はリアルタイムにタブレットPCに反映される。点滴・注射の際には、1)看護師がタブレットPCからラベル印刷、2)点滴コーナーのタブレットPCでそのラベルをバーコードリーダーで読み込むと、当該患者の指示画面が表示される、3)看護師は画面を見ながら点滴調製を行う(図2-2)、4)作成された点滴・注射は患者への投与直前に担当看護師が自分自身のスタッフバーコードを読み込むことでログインした上で、ラベルも認証し実施される(図3)。これら一連の動きにより、看護スタッフ、患者、薬剤の三者認証が実施される。

図2

図3
処方も母乳を含む栄養もほぼ同様の動きで認証され、認証はそのまま指示の実施記録とも兼ねており、後述する会計にも反映される。NICUでは母乳間違いは感染面での問題に加えて母親の心情的なダメージにもつながることから、特に注意が必要である。母乳の調乳に際してはバーコードの貼付された空瓶が栄養課から払い出され患者認証が可能となっている(図4)。

図4
② 指示入力支援および制限機能(図5)
NICUでは刻々と変化する新生児の状態の即したきめ細やかな指示の記載が必要な一方で、薬剤の過量投与などは重大な影響を与えることも多く、誰が入力しても「間違えようのない」仕組みが必要である。NICU部門システムはこの「二律背反」解決に大きな役割を果たしている。
当院の部門システムでは、入力支援機能としては、例えば、ニトログリセリンでは専用の非吸着チューブと遮光の必要もあるが、こうした薬剤ごとの約束事は予めマスタ登録しておくことで自動入力させることが可能である。さらに静注薬や循環作動薬などの投与量は体重当たりで自動計算されるので、それを参考にした指示入力が可能である。この他、頻繁に出される指示に関してはセット入力機能もある。
一方、指示入力制限機能としては、①上述の自動計算機能に付随した極量チェック機能、②注射薬の配合禁忌チェック機能(同一シリンジ内だけではなく別シリンジから同一ルートで合流時にもチェック可能)などの機能を備える。

図5
③ その他の機能
a) 未実施指示アラート機能
予定時刻でも未実施の指示に対しては赤い点滅で警告する。
b) ダブルチェック機能
NICUの看護業務は確認の連続である。患者認証は確認業務全体のごく一部に過ぎず、「人の眼」に頼らざるを得ない確認業務も多数存在する。そうした業務の多くでは看護師2名によるダブルチェックが行われるが、従来はその記録は紙媒体以外では困難であった。当院の部門システムではログイン者に加え、ダブルチェックに参加したもうひとりの看護師のバーコードを読み込むことでダブルチェック実施の記録を電子的に行うことが可能となっている。
3)診療援助機能
看護師の記録では入力の省力化を図るため、定型業務の記録はバーコードリーダーを用いた記録を多用している。ちなみに、これはコンビニおでんの会計からヒントを得ている。
またNICUでは早産児が無呼吸に陥りやすく、その回数や程度の記録が紙媒体以外ではなかなか実現困難であった。当院の部門システムでは、無呼吸の程度が、酸素飽和度低下のみ、心拍数低下のみ、両者の低下と、回復が自力なのか刺激を要したかの組み合わせで予めバーコード集に記載されており、それを1回読み込めばその時間帯の回数がカウントされていくと言う仕組みを構築した(図6)。
この他、インアウトや水分バランスを8時間ごとに1週間分を1画面に表示可能(図6)、体重や頭囲の経時的なグラフもボタン一つで表示が可能である。

図6
4)他部門との連携
当院の部門システムは医事会計システムとは直接連携はされていないが、注射・処方などの薬剤投与以外にも看護師が施行した様々な処置(例えば、保育器使用、人工呼吸管理、酸素投与、浣腸、内チューブ挿入等々)の会計は実施実績から自動的に一覧票が作成され、それが電子伝票の形となって医事課で処理される(図3)。部門システムと医事システムの連携は技術的には不可能ではないが、システム間の連携コストの方が人件費を大きく上回ることから現在のような運用となっている。当院に導入されている電子カルテシステムでは実際の医療行為とは全く別に会計のためだけに入力を要する処置オーダーが存在するが、当科の部門システムではこのような「人的に無駄な行為」は要さない。医療者は医事会計のことを全く意識せず、医師は指示を出し、看護師は指示を実施さえしていれば、会計伝票は自動的に作成され医療行為に専念できる仕組みとなっている(図7)。

図7
◆将来的な可能性
1)認証機能のさらなる進化
本システム導入以降、患者間違いは母乳間違いも含めほぼ根絶され、その他の患者間違いも皆無となった一方、医療機器の設定ミスの比率が相対的に高くなり、特にシリンジポンプの流量設定間違いが問題となっている。「点滴速度は本当に指示と設定が合っているのか?」と言う、いわば哲学的とも言える課題が今なお大きく立ちはだかっている。現時点では設定流量を手入力することによる確認(図3)とダブルチェックによって対処しているが「人の眼」による確認の精度には限界があり、「機械の眼(=バーコードリーダー)」による確認システムが必要と考えられる。そこで外部通信機能を有するシリンジポンプからリアルタイムの流量設定値を液晶にQRコードとして表示させ、QRコードリーダーが読み込み可能な情報に変換することで、この情報をNICU部門システム内に取り込み、指示内容と一致しているか否かをチェックさせるシステムを構築した(図8)。今後こうした医療機器とシステムとの連携強化および進化により、確認できる範囲を更に拡大していくことが、より安全な医療の提供と、また働く者にとっての安心につながって行くものと考えられる。

図8
2)医療情報の二次利用
当院では患児のバイタルサインや治療内容は全て部門システムに保存されており、全てテキスト情報として抽出可能である。当院NICUでは2011年から超低出生体重児の循環管理方針を大幅に変更し、それ以前と比べて急性期の重篤な合併症である脳室内出血や消化管穿孔、さらに死亡率や在宅酸素療法が必要なる率を大幅に改善させることに成功した。当院のシステムでは急性期の治療内容および患児のバイタルサインや水分バランス等を生後120時間まで8時間ごとのデータを自動抽出可能であり、実際に治療方針変更前後5年ずつを前期・後期として比較したところ、前期に比して後期では、薬剤投与量・水分量の変動が少なく、血圧・心拍数・水分バランスも安定していた(図9)。

図9
当院のシステムではパラメータを設定すれば患者情報を匿名化した上でcsvファイルとして書き出しが可能であり、ほんの数分で膨大なデータの比較が可能となっている。こうした機能を全国のNICUに導入し、データ収集を行い解析することができれば、どのような傾向を持つ施設の成績が優れているのかも瞬時に判明することであろう。今後はこうしたビッグデータを活用することによって、前方視的でもなく後方視的でもない「リアルタイムスタディ」によるエビデンス構築が可能となるのではないかと考えられる。
◆おわりに
新生児医療において患者は医療機関を選ぶことができない。しかし一方、こうした部門システムを導入しているか否かによって提供しうる医療の安全性において大きな施設間格差が生じている可能性がある。少なくとも最低限の機能として成人領域において一般化している処方量の極量チェックや患者認証などのリスクマネジメント機能は新生児領域においても必須条件とされるべきであろう。医療情報が電子化されている今日だからこそ可能であるはずの医療安全機能が、今後、新生児医療領域においても一般化され、さらにはこうしたシステムの普及が全国の新生児医療水準向上にも寄与することが期待される。
(文責 成育科 網塚 貴介)
2015.08.27
先日、藤田保健衛生大学小児科の宮田昌史先生がスタッフの方達と一緒に、当科のNICU部門システムの見学に来て下さいました。新病棟ができる際にNICU部門システムも導入したいとのことで、特に母乳の取り違いなどのリスク管理を重視されているとのことで、当院のシステムにご興味を持たれたそうです。



当院の部門システムは特にリスク管理を最重要視しており、開発はかれこれ10年以上前までさかのぼりますが、母乳認証の導入も恐らく全国で(世界で?)最も早かったのではないかと思います。現在に至るまで、患者認証だけではなく、指示入力の支援機能と制限機能も網羅されており、このレベルまでに既存の電カルが達するまでにはまだまだ10年以上はかかるのではないかとの自負もあります。早くこうした安全機能がNICUで全国でも標準化されることを願っています。




2013.12.21
先週の木曜日(12月19日)、先月当院へ見学に来て下さった仙台市立病院の千葉洋夫先生にお招きいただき、当院のNICU部門システムのご紹介をさせていただきました。


うちの部門システムは当科オリジナルで、ジャイロさんと言う会社の方と一緒に開発しました。NICUの業務は成人に比べてとても細かく、少なくとも開発当時は既存の大手電カルではとても実用にならず、無理に電子カルテを使おうとすれば診療上のリスクが高まることは誰の眼にも明らかでした。そこで、うちの部門システムでは特に安全機能を最重要視した作りとしました。

患者認証機能は既存の電カルでも当時から可能でしたが、うちのシステムでは処方や栄養に関しても認証できるように設計しました。小さな赤ちゃんを扱うNICUでは注射だけではなく処方や栄養の間違いでも大事故につながりかねませんし、また更に母乳間違いは感染症のリスクもあります。システム導入以降はこうした患者間違いはほとんど見かけなくなりました。母乳認証も今では他のメーカーでもかなり導入されるようになってきましたが、母乳栄養の患者認証機能の実用化は恐らく全国で最も早かったのではないかと思います。
指示入力に際しての安全機能には入力制限機能と入力支援機能があると考えています。入力制限機能とは誤った指示は極力入力できないようにする機能で、例えば混合すると混濁してしまう薬剤を混注できないようにするとか、体重あたりの投与量が極量を超えた時に警告するなどです。うちのシステムでは混注だけではなく、異なるシリンジからでも同一ルートから混注不可の薬剤を入れようとした時に警告を発する機能もあります。

入力支援機能としては、例えば遮光や専用チューブが必要な薬剤の場合やフィルターを通してはならない場合には自動的に指示にそのことが入力されるとか、そのほか、複雑な計算を要する薬剤投与量を自動計算したりすることが可能です。
既存の電カルは医事会計をメインに考えているためか、会計を取りやすくするためにどうしても医療者側がそれに合わせたオーダー入力を個別に行わなければならない部分が多いと感じています。この点に関して、当科のシステムでは基本的に医療者は自分たちの仕事をしているだけで、そこから必然的に発生した指示や記録を自動的に拾い上げることによって、会計のためのオーダー入力を可能な限り不要とすると言う特徴もあります。
例えば、医師が人工呼吸器の指示を入れたと言うことはその患者さんは人工呼吸器(と酸素)を使用している訳ですから、それはそのまま処置の会計に飛びますし、また、看護師さんが浣腸を実施すれば、その記録から浣腸の会計を発生させると言う仕組みです。
当科のシステムを開発してからかれこれ8年の歳月が流れましたが、こうした機能に関してはまだまだ最先端であるとの自負があります。NICUで働く側にとっては部門システムは必須と思いますが、その導入には予算も必要ですので病院側の理解が必須です。NICU部門システムの必要性を院内で訴えて、それが何に役立つのか?と問われた時、最優先されるのは医療安全のはずです。このことを最優先することによって病院側にもその必要性が認められ、そこで初めてさらに付加的な診療水準の向上や入力に際しての労力軽減の点でも現場が恩恵を受けることが理想的なのではないかと考えています。願わくばこうした部門システムが全国一律に導入が認められる時代を目指したいと思っているところでもあります。
講演の後は町中に繰り出して懇親会を開いていただきました。
途中、光のページェントがとても綺麗でした。

懇親会後の集合写真です。若手の先生方と多くの研修医の皆さんがたくさんいてとても羨ましかったです。千葉先生、ありがとうございました。
