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成育科ブログ

2014.05.19

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今回は早産児の呼吸調節に関してです。
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昨日に続き、また皆さんに質問です。
早産児が無呼吸になるのは呼吸中枢が未熟だからと言われますが、それではなぜただ圧をかけるだけのnasalCPAPが有効なのでしょうか?SiPAPのように時々加圧してくれるなら呼吸刺激になりそうな気もしますが、nasalCPAPはただ圧をかけているだけです。未熟児無呼吸の原因が中枢型無呼吸ならnasalCPAPは効果がないはずだと思いませんか?

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無呼吸発作を分類すると中枢型、閉塞型に加えて混合型と言うのがあります。混合型と言うのは、気道の閉塞等が生じた時に、それに抗って呼吸を再開させることができず、そのまま中枢の方も呼吸するのを諦めてしまうタイプの無呼吸で、これが早産児の無呼吸発作の主原因と言われています。

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ここで新生児の呼吸調節のおさらいをしてみたいと思います。呼吸中枢は延髄にありますが、これはそれだけで呼吸を維持しているのではなく、いかなる時にも呼吸が止まらないように大脳皮質や各種受容体からの多重の刺激によって自発呼吸を維持しています。化学受容体としては脳幹部にある中枢性化学受容体は水素イオンに、また大動脈弓などにある末梢性化学受容体は低酸素に対して反応します。この他に胸膜にある伸展受容体は肺の膨らみを検知し、これは血液ガス値に関係なく独立して呼吸刺激すると言われています。

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一方、早産児は成熟児に比して呼吸中枢が全体的に未熟です。その中で伸展受容体を介した神経反射性呼吸調節が大きな位置を占めます。
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神経反射性呼吸調節の中で最も有名なのがHering-Breuer(HB)反射です。この反射は肺胞が膨らむと吸気から呼気へ、肺胞が縮むと吸気へ移ることにより規則正しい呼吸リズムを作りやすく、機能的残気量(FRC)が少なく肺胞が虚脱しやすい早産児のFRC維持に役立っています。規則的な吸気と呼気の交代性を振り子に例えると、HB反射は振り子そのもの、呼吸中枢はその振り子を振ろうとする力(呼吸中枢からの遠心性刺激)に相当します。

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この振り子は、成熟児であれば振り子自体(=HB反射)は小さく、呼吸中枢による遠心性刺激が大きいですが、

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早産児ではその逆に、弱い呼吸中枢を大きな振り子(強いHB反射)で補っていると言えます。しかし、ある意味惰性とも言えるこのHB反射は、ひとたび気道閉塞などによってその振り子が止められてしまうと、呼吸中枢自体は未熟ですので呼吸が再開できず無呼吸発作に陥ってしまいます。早産児における呼吸中枢の未熟性とは「閉塞に抗って再呼吸することのできないこと」と言い換えることができるかと思います。

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早産児ではさらに高CO2血症や低酸素血症に対する反応も未熟です。通常、CO2が上昇すると換気応答により換気量が増えますが、無呼吸発作児ではその換気応答が乏しいことが知られています。また低酸素の場合も、通常であれば低酸素血症が呼吸刺激になるところ、早産児では逆に呼吸抑制として作用することも知られています。一度SpO2が低下してしまった早産児はbaggingしないとなかなかSpO2が再上昇しないことも、このような機序によって説明が可能です。

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またHB反射の維持には機能的残気量(FRC)の維持が不可欠です。吸気と呼気の交代性に寄与しているとは言っても、極端にFRCが小さくなってしまった状態ではもはやHB反射は作動しません。つまり早産児の自発呼吸維持にはFRCの維持が不可欠であり、FRCの維持は自発呼吸と好循環の関係となりますが、FRCの低下はHB反射の停止と低酸素血症による呼吸抑制と言う二重の悪循環に陥ることになります。よって、早産児の自発呼吸維持は図のようにまさにやじろべえがどちらに傾くのかにかかっていると言うことができるかと思います。

かなりざっくりした感じで解説してきましたが、今回の部分の詳細は イラストで学ぶ新生児の生理と代表的疾患 改訂2版 「第1章 呼吸」で詳しく書かせていただいています。eBooks 版も出ていますので、是非、ご覧いただければと思います。

この自発呼吸の維持とFRCの維持が人工呼吸管理の中でさらにどのような意義を持つのかは、次回以降に解説したいと思います。

2014.05.18

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先月、名古屋第一赤十字病院で新生児の人工呼吸管理に関して講演させていただきましたが、その時のスライドをホームページ用にまとめたので、これから随時アップしていきたいと思います。
今日はその第一部、Part1です。

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早産児の呼吸管理を考える時、まず成人との違いを抑えておく必要があります。NICUで働くようになったばかりの頃、指先にパルスオキシメータのセンサーを巻き、息を止めてどこまで下げることができるかやってみた方も多いかも知れません。これ、健康な成人が90%以下になるまで息を止めているのはかなり苦しいはずで、それまでに結構な時間もかかるはずです。でもいつも診察している早産児の赤ちゃん達は無呼吸になるとあっという間にSpO2が下がってしまいます。でもひとたび息を吹き返せばあっと言う間に元の値まで戻ってしまいます。これは機能的残気量が回復するからですね。早産児と成人の違いの一つはここにあります。

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あらためて言うまでもありませんが、呼吸とは「換気」と「酸素化」の両者を意味します。

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換気、すなわちCO2の拡散は肺胞と肺動脈血のCO2分圧較差によって行われます。

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一方、酸素化、酸素分子の拡散は両者の酸素分圧較差に加え、拡散面積が重要な役割を持ちます。この拡散面積とは肺の中では平均肺容量のことを意味します。

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では、この平均肺容量とは何か?と言うと、この図のようによく見る肺活量の図の中では、安静呼吸時における機能的残気量(FRC)や大きく息を吸った際の換気量までを含めた、図中のピンク色の部分の面積の平均値に相当します。時間による積分値の平均値と言い換えることができるかと思います。

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ただ、よく見るこの図で注意しなければならないのは、実は機能的残気量(FRC)は一定ではないと言うことです。FRCが不十分な時と言うのは肺胞が十分開いていないと言うことを意味します。酸素化は静脈血が右心室から肺動脈に運ばれ、肺胞を通る際に行われますが、ここで肺胞の開きが十分でない場合、血液は十分酸素化されることができず、静脈血がふたたび動脈を通して全身に運ばれることになります。つまり肺内シャントが生じてしまいます。

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それではどのような時にFRCが低下するのでしょう?典型的な無呼吸の場合、自発呼吸が消失してSpO2も下降するのが一般的ですが、

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自発呼吸が保たれているのにSpO2が低下してしまう状態もよくみる光景です。
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これは人工呼吸管理中でも同様です。

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この図では、SpO2低下の前に、食道内圧(=胸腔内圧)が上昇する一方で肺容量が低下している所見を認めます。何か起こっているかと言えば、赤ちゃんが人工呼吸器の圧に打ち勝って、自分で息を吐き出していると考えられます。

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FRCが低下する機序はこれだけではないでしょうけれども、いずれにしても早産児ではFRCはかなり不安定であると言うことは理解しておく必要があると思います。FRCの維持は自発呼吸の維持にも重要な役割を果たしており、この詳細は後日あらためてアップしたいと思います。

2014.05.16

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当科にまた新たな人工呼吸器がやってきました。
Servo-iと言う機種で、この人工呼吸器自体は汎用機として広く使われている機種ですが、新たにNAVA(Neurally Adjusted Ventilatory Assist)と言う全く新たな呼吸モードを搭載しました。
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このNAVAと言うのは、横隔膜の神経信号(横隔膜活動電位:Edi)を直接検知して換気補助を行う自発呼吸モードで、当科で頻用しているステファニーのPAV(proportional assist ventilation)が自発吸気フローに比例した補助を行うのと同じようにNAVAではEdiの強さに比例した大きさの換気補助を行います。従来の人工呼吸器は患者さんの吸気努力を口元のフローとして検知してから、それを人工呼吸器へフィードバックさせて換気補助を行っていましたが、NAVAは横隔膜活動電位自体を検知するので、より理想的な人工呼吸管理が期待されます。
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横隔膜活動電位の検知には食道内に栄養チューブを兼ねた専用のカテーテルを挿入し、そこで電位を検知させます。
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患者さんの自発呼吸がしっかりしている時にはEdiもしっかりしていますが、無呼吸になるとEdiは平坦になってしまいます。
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患者さんの自発呼吸の強さに比例した換気補助を行うと言う点ではPAVとかなりの共通点があります。今後、NAVAは新生児領域でも徐々に拡がっていくと期待されますが、従来式の従来式人工呼吸器とはかなり使い方が異なりますので、その点ではかなり以前からPAVを使いこなしてきた当科だからこそ、NAVAの導入に際しては他施設よりアドバンテージがあるのではないかと考えています。より赤ちゃん達に優しい人工呼吸管理が実現することを願っています。

2014.05.09

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当院NICUは2001年4月に開設され、早いものでもう丸13年になります。NICU開設以来の私の当直回数を調べたところ、昨夜がどうやら1000泊目のようです。1000泊達成までに13年と1ヶ月(≒365日×13年+30日=4775日)ですので、これを1000日で割ると平均して約4.8日に1回の割合でこの13年間当直していたことになります。

大学からの医師の引き上げをはじめ、本当に色んなことのあった13年でしたが、職業病とも言える不眠症などに悩まされたことはあったものの、それでも大病を患うこともなくこれまで何とかやってこれたことには素直に感謝したいと思います。

しかしこれからを考えると、もうこんな馬鹿げた勤務体制は我々の世代でそろそろ終わりにしなければとも思います。労基法どころか過労死基準さえ軽くクリアするような勤務条件に辛うじて支えられるような医療に持続性などあるはずがありません。少なくとも当科に関しては、計画的な人材育成によって将来的に安定性のある医療提供体制をしっかり構築してから、次世代にバトンを渡したいと考えています。

ちなみに、このまま順調?に行くと、来年の秋頃には当直回数が丸3年(365日×3年)に達するのではないかと思います。その際にはまたこのブログ上でもお知らせしたいと思います。

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昨夜の検食です。昔はこの量では全然足りなかったのですが、最近は食事の量も減ってきて、この検食でちょうど良くなってきました。

【2015年5月10日追記】

2014年夏から青森県内の地元紙である東奥日報で 「知ってほしい赤ちゃんのこと」  と題した連載をしています。 上記の表題をクリックすると連載一覧にリンクします。 是非、ご覧いただければと思います。

2014.05.02

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昨年9月に八戸高専の小林健太君が、以前より当科と一緒に行っているシリンジポンプのQRコード化による流速認証の研究で計測自動制御学会・東北支部集会で参加最年少ながら最優秀賞を獲得したとご紹介しましたが、今度は東京で開催された計測自動制御学会の2013年度学術奨励賞・技術奨励賞を受賞されたそうです。他の受賞者4人は大学院生や企業の研究者で、受賞当時専攻科1年だった小林君は最年少での受賞だそうです。

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発表のタイトルは「QRコードを用いたシリンジポンプの流量認証システム」です。
以下、Webニュース からの抜粋です。

このシステムは、低出生体重児に薬品を投与するシリンジポンプに、薬品の流量設定値をQRコードで表示する小型機器を装着。電子カルテの端末でQRコードを読み取ると、カルテに記入された流量とポンプの流量設定値が合致しているかを自動的に確認できる。
小林さんは、県立中央病院新生児集中治療管理部(NICU)の網塚貴介部長から、ポンプの流量設定ミスをなくしたい-と依頼を受け、12年4月、同校電気情報工学科5年時から研究を開始。NICUでは、複数の看護師で薬品の流量をチェックするが、患者1人が複数台のポンプを使用し、薬品ごとに流量が違うため、しばしば設定ミスが起こるという。
小林さんは同校電気情報工学科の釜谷博行教授の指導を受け、網塚部長のアイデアも踏まえて何度もシステムを改良。「夜な夜な研究室に泊まり込みでした」と振り返る。
2月、東京大で行われた贈呈式に出席した小林さんは「世の中で役立つ物を作りたかったので、評価されてうれしい」と笑顔。現在、他の医療機器にも対応可能なシステムへと改良を進めており「商品化へこぎ着けたい」と意欲を示している。

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(「シリンジポンプの流速認証システム(動画あり)」より)

 

関連リンク
低体重児への投薬システム改良 八戸の高専生が史上最年少で学会賞(Web東奥)

小林さん 最年少で学術奨励賞受賞(デーリー東北新聞社オンラインサービス)

八戸高専の小林君がシリンジポンプのQRコードで最優秀賞!

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