2014.05.24
来月の6月13日に医学出版から水野克己先生編著で『すぐ使える! 入院中から退院までの母乳育児支援~まずはこの1冊~』が出版されます。


目次にもありますが、この本の中で「後期早産児が可能な限りお母さんと一緒にいられるようにするための工夫と注意点」の項目を執筆しました。これまでも昨年の 周産期医学9月号「周産期におけるPros, Cons」 の「Late preterm児は母子同室で管理したほうがよい」の中で当科で行っている直母外出に関してご紹介しましたが、今回はその実際をもっと具体的にするために、赤ちゃんのご家族に撮影のご了解をいただいた写真を数多く取り入れ、イラストも加えて解説しました。
母乳育児にかかわるお仕事をされている皆さんに是非ご覧いただければと思います。
2014.05.23
肺リクルートメント効果からみた人工呼吸器の機能を前回取り上げましたが、VG(Volume Guarantee)が入っていないことを意外に思われた方もいらっしゃるかも知れません。今回は前回、あえて外したこのVGの位置づけをかなり個人的な考え方になりますが述べてみたいと思います。
VG は従圧式換気、時間サイクル式換気、定常流式換気および従量式換気の利点を併せ持った複合的換気様式で,1 回換気量(tidal volume;VT)を指標にした従圧式換気です.VT が設定された1 回換気量となるように、あらかじめ設定された換気圧上限の範囲内で換気圧を自動調整しVT の安定化を図ります。

この説明だけを聞けばとても良さそうなのですが、実際の使用場面では自発呼吸が強い場合に自発呼吸のみで設定されたVTに達してしまうと完全なtubeCPAP状態になってしまうことがあります。確かにVTは維持されているのですが、実際のトレンドグラフでもVTはかなり上下していることも確かです。

このVGの機構をPAVやNAVAと比べてみると面白いことが分かります。VGでは自発呼吸が強くなるほど人工呼吸器からの補助換気圧は低くなりますが、PAVやNAVAは自発呼吸の強さに比例して加圧します。つまり、この両者は全く逆の働きをする呼吸モードと言うことができるかと思います。


では、この両者のどちらが優れているのでしょうか?
既にエビデンスレベルでCLDに対する有効性が示されているVGが相手では新参のPAVもNAVAも分が悪いですが、考え方としては使用する場面の違いが重要なのではないかと言う結論に個人的には達しました。

これは5月16日の 新型人工呼吸器登場!NAVA の時にも登場した図ですが、呼吸中枢から神経・横隔膜を経てきた呼吸の信号はPAVやNAVAの場合、自発呼吸の強さに比例するからこそ呼吸中枢へのフィードバックが効くのではないかと思います。つまり自発呼吸が前提なのであれば、やはりPAVやNAVAが優れていることは疑いの余地がありません。それではVGの位置づけは?と言うと、これは自発呼吸のない状態、つまり無呼吸時のバックアップ換気としてこそ、その有用性が発揮されるのではないかと考えました。VGにおいて一定の換気量を得るためになぜ圧が自動調節されなければならないのか?を考えた時、その理由が単純に肺のコンプライアンスによるのであれば、圧は肺のコンプライアンスにのみ依存して可変しますが、ここにもう一つ自発呼吸が因子として加わるとVGは2つの因子によって左右されることになります。このことがVGの挙動の不安定さを招いているのではないかと思います。一方、当科でもVGは生後早期でまだ鎮静をしている頃にはかなりの割合で使用しています。またこれまでCPAP+PAVのバックアップ換気では単なる従圧式換気を選択していましたが、ステファニーでもVTをターゲットとした換気は可能なので、この辺が今後の検討課題となるのかも知れません。
今回は(今回も?)かなり独断的な見解を述べてみました。かなり異論・反論はあるかとは思いますが、こうした議論がVGの位置づけを考える上での一助となれば幸いです。
2014.05.22
今回はこれまで述べてきたコンセプトを実現するためにはどんな人工呼吸器・呼吸モードが適しているかに関して考えてみたいと思います。
新生児人工呼吸器は自発トリガーのないIMVからSIMV、PTV、PSV、PAVへと自発呼吸による呼吸努力の軽減と自発呼吸への追随性の向上によって進化してきました。しかし、これらの機能はいずれも自発呼吸を前提としており、無呼吸時には単なる強制換気でしかありません。つまり新生児人工呼吸器における最新機能を活かすには自発呼吸が必要であり、無呼吸時には適切なバックアップが働くことが重要となります。これは単なるバックアップと言うより、不安定なFRCを回復させ、Hering-Breuer反射の再ドライブにより自発呼吸を再開させる肺リクルートメント機能として重要な意義を持ちます。さらに、低すぎるPEEPが肺障害の原因となり不必要な酸素投与にもつながることから、肺保護の観点からも適切な肺リクルートメント機能によるFRCの維持こそが早産児の人工呼吸管理における「キモ」と言っても過言ではないと思います。

例えば自発モードがPSVでバックアップ換気圧がPSV圧より高ければ、自発呼吸比率が高いほど平均気道内圧は下がることになります。しかし、無呼吸が多いとその逆になります。理想的な人工呼吸器とは、自発呼吸が維持されている時には低い圧で、無呼吸時あるいはFRCが低下している時には適切な肺リクルートメントによって自発呼吸を再び促すことのできる機能を持った機種と考えます。
一般的な人工呼吸器でも無呼吸モードを搭載している機種が多々ありますが、その多くは一定の無呼吸時間の後に無呼吸モードに切り替わり、自発呼吸が検知されると再び自発モードに切り替わると言うものです。一見、それで何の問題もないように思えますが、早産児の場合、それだけでは落とし穴にはまります。例えば自発モードがPSVの場合、無呼吸検知と自発呼吸のトリガは共通していることが多いので、体重の小さい早産児だからトリガ感度を鋭敏にしようとすればするほど、ちょっとしたノイズを自発呼吸と誤認識する可能性が高まります。また、単に無呼吸時間を設定するだけでは、自発呼吸の誤認識から再度無呼吸時間をやり直しになりますので、その間にSpO2はどんどん低下して行ってしまいます。これが、このタイプの無呼吸モードの限界と言えるでしょう。

成人領域でも汎用されるサーボiのオートモードはこの点でちょっと面白い機能です。他機種と同様に無呼吸時間を設定するのですが、その無呼吸時間とは自発呼吸が10回連続した時点で初めて有効となり、それより少ない自発呼吸回数の場合には、ある式によって定められた規則によって無呼吸時間を短縮させていきます。このモードはまだ使ったことはありませんが、最初に知った時には「コロンブスの卵」のような感動を覚えました。早産児の呼吸管理において有効な自発呼吸があるのか?本当に無呼吸なのか?を認識するのは、技術的にはかなり難しい部分があるのではないかと思います。その点で、このモードはその限界をよく知った上で、その限界を補うためによく考えられていると思います。


ハミングXのSIMV+PSVはとてもユニークで、SIMVモードなのに無呼吸時のバックアップ機能を有します。仮に換気回数15回/分のSIMV+PSVの場合、設定された無呼吸時間を経過すると、別設定されたBU換気回数(例えば25回/分)による強制換気が行われます。強制換気の最大吸気圧はSIMVと同一ですが、回数の増えた強制換気は肺リクルートメント効果を期待できると思います。

またSLE5000のPSVもとてもユニークです。通常、PSVと言うと、無呼吸時にも呼気のターミネーションによって吸気時間が可変となりますが、SLE5000のPSVでは自発呼吸を検知しなかった場合には最大吸気時間を守ります。この特徴を活かせば、PSVの最大吸気時間を長めに設定しておくことによって自発呼吸がある時には吸気時間の短いPSVで、無呼吸の場合には長い吸気時間によって、やはり肺リクルートメント効果が期待できます。

最新のBabylogVN500(VN500)にはMMVが搭載されています。このモードは分時換気量を確保するための従圧式換気で、例えばPSとの組み合わせであれば、PSのみで設定分時換気量が維持されていれば強制換気は行われませんが、PSのみで分時換気量が維持できなくなった場合には強制換気が加えられ、無呼吸時にはVGによる強制換気となります。

ただし、例えば啼泣等により自発呼吸による分時換気量が設定値よりもかなり上回ってしまった場合、無呼吸時間の設定がないため、一度無呼吸になると分時換気量が設定値を下回るまで強制換気が作動しないと言う状態になります。この点が改善されればかなり有望なのではないかと期待しています。またMMVは肺リクルートメント効果としては、別に無呼吸検知にこだわる必要がないことも示していると言えるのかも知れません。

最後にステファニーです。ステファニーのCPAP+PAVでは自発呼吸時にはPAVにより換気し、無呼吸モードが作動するとその後に自発呼吸が回復してもバックアップ換気は予め設定された一定のバックアップ換気時間作動した後、その回数を徐々に減じながら自発呼吸モードに切り替わる機能があります。もしバックアップ換気時間内に自発呼吸が回復した場合には、バックアップ換気は途中からA/Cとなり自発呼吸をトリガします。バックアップ換気時間が終わると自発モード(PAV)に切り替わりますが、バックアップ換気回数をFとした時、F/2、F/3、F/5と回数を徐々に減じていきます。バックアップ換気が単純なON・OFFではないことが大きな利点となっていますが、もう一つの利点はPAVとの組み合わせであると言うのも大きいかも知れません。前述のようにPSVであれば無呼吸検知はトリガ感度と同一にならざるを得ませんがPAVにはトリガ感度がありません。この特徴もまたPAVとバックアップ換気との相性の良さと言えるのかも知れません。

ステファニーのCPAP+PAVの設定にはトレンドグラフが役に立ちます。PAVの比率が高い時にはPIPが変動しており、平均気道内圧も低く保たれますが、バックアップ換気の比率が高いと平均気道内圧は高くなります。

PAVのgainを下げて、それでも無呼吸が増えなければweaningは成功です。時にはPEEPを上げることでPAV比率が上がり、結果としてPEEPが上がったのに平均気道内圧が下がることさえあり得ます。

また、バックアップ換気が不十分なために自発呼吸比率が下がり結果として平均気道内圧が上がってしまっているような場合には、バックアップ換気圧を上げることによって、結果としてPAV比率が上がって平均気道内圧を下げることができる場合もあります。

PAVはなかなか使い慣れないと分かりにくいところばかりですが、PAVで培ったこうしたノウハウは、今後のNAVAの導入にも活かされるのではないかと期待しているところです。
2014.05.21
これまで早産児の人工呼吸管理にはPEEPの設定が重要であると述べてきました。
今回は適切なPEEPの設定に関する考え方について述べたいと思います。
PEEPを適切に設定する鍵は酸素の使い方にあると考えています。

過去3回で述べてきたことをまとめると、早産児では機能的残気量(FRC)が不安定であること、自発呼吸維持にはそのFRCの維持が重要であること、さらに肺に優しい呼吸管理にも結局、FRCの維持が重要であることを述べてきました。全ては適切なPEEP設定にかかっています。

ここでくどいようですがPEEPの意義をおさらいしておきます。PEEPの設定値は一般的には4~6cmH2O程度とされていますが、後述するように必要に応じてもっと高い値が必要になる場合もあります。問題は循環との兼ね合いのみです。

人工呼吸管理におけるPEEPの作用は多岐に渡ります。

ここで実際の患者さんを想定してみたいと思います。

このような患者さんがいた時、どの設定を選択されるでしょうか?当科であれば答えは③か⑤です。CO2の値にもよりますが、CO2が許容できるなら、この場合abovePEEPとしてはむしろ1cmH2O下げたことになります。平均気道内圧は上がりますが、これで仮にPEEPを7cmH2Oまで上げてもPIPがそのままなら、ある意味、weaningできていると言う見方さえ可能です。
それは極端としても、PEEPの設定は酸素の使い方と密接な関係があります。
以下に当科における酸素の使い方のコツを列挙してみます。
これが全てと言っても過言ではありません。

さらに細かくなりますが、当科における人工呼吸管理設定の考え方を列挙します。

多少異論があるとは思っています。特に高いPEEPは必ず下げられるのか?と言う点に関しては、これは経験則でしかありません。ただ、不十分なPEEPで高い酸素濃度で管理するよりはベターなのではないかと言うのが当科としての考え方です。
次回からは、こうしたコンセプトを実現させるために必要な新生児用人工呼吸器に求められる機能について述べてみたいと思います。
2014.05.20
今回は「肺に優しい呼吸管理」に関してです。

まずは基本的事項のおさらいから述べていきます。
人工呼吸管理による肺損傷(Ventilator induced lung injury、VILI)の原因としては、
1. Volutrauma
肺胞過伸展による肺胞上皮、血管内皮細胞の障害
2. Atelectrauma
無気肺に隣接する終末細気管支に対する障害
2’.Shear stress
過膨張と虚脱で生じるずり応力による障害
3. Biotrauma
炎症性メディエーターによる障害
が主原因と言われています。これらをなんとか軽減しようとするのが「肺に優しい呼吸管理」すなわち肺損傷予防戦略(lung protective strategy:LPS)で、呼吸管理する上では
1.少ない1回換気量
2.肺の過膨張を防ぐ
3.肺の虚脱を防ぐ
の3点が重要です。

かつて、肺損傷と言えば圧損傷(barotrauma)がその原因と考えられていた時代がありましたが、今は圧そのものではなく過剰な圧で肺を過伸展させることによる肺損傷(volutrauma)の影響が大きいと考えられています。
(肺に対して圧ではなく量が損傷の主原因であると最初に証明したのは、実験動物の胸郭をぐるぐる巻きにして肺が拡がらないようにした上で過剰な圧をかけて換気を行ったところ、肺はダメージを受けなかったと言う実験だったそうです)
そして意外にに見逃されがちなのがatelectrauma(無気肺損傷)です。
Atelectraumaは一般的に上記のような説明がされていますが、分かりやすく言うと、不十分なPEEP下で加圧して肺を無理矢理拡張させると、そのたびに肺胞が虚脱と拡張を繰り返すことで肺がダメージを受けると言う感じです。肺が硬い(肺のコンプライアンスが低い)時に人工呼吸器のグラフィックを注意深く見ると、図のように人工呼吸器で圧をかけても最初のうちなかなかVolumeが増えず、PIPに近くなってから急にVolumeが増え出すようなことがあります。これはPEEPが不十分である時に見られる所見で、atelectraumaはこのような時に生じると考えて良いでしょう。

では、理想的な換気はどのようなものかと言えば、肺の圧量曲線に二つの変曲点がありますが、少なくともこの中間で換気されることが望ましいのではないかと考えられます。ただし、LIP(Lower inflection point)が「至適」PEEPかどうかには異論も多く、PEEPの設定は「肺に優しい呼吸管理」を考える上で、最も頭を悩ませるポイントと言えます。
ここで突然ですが、写真の大小二つの風船をつなげるとどうなるでしょうか?

答えは「小さい方がつぶれ、大きい方が少し膨らむ」です。
膨らませる時のことを考えてみれば当然ですが、風船の膨らみが小さい時の方がより大きな力が必要なことからも分かるかと思います。
「いったん膨らんでしまった風船はより拡がりやすくなる」
これは肺にもあてはまります。

肺の中の個々の肺胞は必ずしも同じ大きさをしているわけではなく、肺胞の状態に応じて拡がりやすかったり萎みやすかったりと、それらが混在していると考えられます。ここで、不十分なPEEP下で過剰な圧で換気すると、過膨脹気味の肺胞はより過膨脹に、虚脱気味の肺胞はより虚脱して無気肺の方向に向かうと考えられます。それを防ぐにはその逆、つまり十分なPEEPで予め肺胞をある程度開きやすくしておいて、なるばく少ない換気量で換気するのが理に適っているはずです。
このような換気をしていると自ずとCO2は高めにならざるを得ませんが、可能な限り高めのCO2を許容する方針がPermissive hypercapniaです。下の図は人工呼吸管理中の超早産児におけるpCO2の分布ですが、55mmHg以上の比較的高めの値は検体数として約1/3、患者数としては約8割を占めます。

pCO2を高めにするとアシドーシスが心配になりますが、この中でPH<7.25となった例は4検体(2名)のみで、いずれもその後に代謝性に対償しています。

では、人工呼吸管理中の肺損傷予防は具体的にどのようにしたら良いのでしょうか?
Volutraumaを最小限にするには一回換気量を抑える必要がありますが、ただそれだけでは酸素化が悪くなる可能性があります。その点ではatelectrauma予防以前に酸素化を得るためにも十分なPEEPが必要と言うことができるでしょう。
また換気モードはどうしたら良いのでしょうか?SIMVだけで行おうとすれば、恐らくは自発呼吸がある時にはSpO2は維持できるでしょうけれども、自発呼吸のない時には圧不足になる可能性は十分に考えられます。その時々で細かく設定変更できれば良いですが、あまり現実的ではなさそうです。またより肺に優しいPSVは、肺のコンプライアンスが悪化すると一般的に吸気時間が短くなりますので、前述した機能的残気量(FRC)が可変と言う前提に立てば、PSVのみの管理も難しい可能性があります。
この辺の問題に対しては各施設間の違いもあるかと思います。看護師さんが頻回にバギングしていたり、看護師さんに人工呼吸器の設定変更を任せることで対処している施設もあるかと思います。

こうした問題、つまり実際のPEEP設定や換気モードの選択をどのようにしたら良いのか?この問いに対する答えは次回以降に続けたいと思います。