今月から東奥日報夕刊で「 知ってほしい 赤ちゃんのこと 」と題して連載をるすことになりました。今回はその第1回目です。

以下、本文です。
みなさん、はじめまして。私は青森県立中央病院新生児科の網塚貴介と申します。今回から毎月第1・3週月曜日の夕刊で「知ってほしい 赤ちゃんのこと」と題して連載させていただくことになりました。この連載では、私たちが勤務している周産期医療の現場のことや赤ちゃんやご家族を取り巻く社会的環境のこと、さらに日常の外来でお母さん達によく質問されることの多い育児上の疑問点など少々雑多になるかも知れませんが、赤ちゃんに関して多くの方に「知ってほしい」ことをご紹介したいと思います。
周産期医療と言うとあまり聞き慣れない方も多いかと思います。「周産期」とは定義上「妊娠22週から生後満7日未満までの期間」を指しますが、一般的に周産期医療と言うと、妊娠中に生じる合併症や早産、分娩時の新生児仮死など、母体・胎児や新生児の生命に関わる事態に対処する医療分野です。また救急医療や地域医療などと異なって、日常生活ではその存在を意識することのない医療分野なのではないかと思います。
妊娠が分かって出産が近づくと「どうか元気に生まれてきて下さい」と安産祈願したり、赤ちゃんが生まれると「どうか元気に育ちますように」とお宮参りに行ったりしますよね。実は人生を通して「死」に最も近いのが誕生の時であり、古来からこうした「神頼み」が定着していることも、赤ちゃんが生まれ育つ過程の中で様々なリスクが存在しているからに他なりません。事実、周産期センターに入院された赤ちゃん達にも、時には亡くなられたり、のちの成長の過程で何らかの後遺症を残す赤ちゃんは決して少なくはありません。
妊娠出産が心配になってしまいそうなことばかり書き連ねていますが、ここで「だから妊婦さん達に心構えを」なんて言うつもりはありません。むしろ当事者になるかも知れない人よりも、年代的にも完全に他人事と感じている方達にこそ、赤ちゃんが産まれてくる時のリスクは意外に高いのだということを知って欲しいと思うのです。なぜなら、それはごく身近な人、例えばご自身の娘さんや職場の部下にいつ起こるかも知れず、何も知らないことが時に取り返しのつかない事態を招いたり、消えない心の傷を負わせたりするかも知れないからなのです。
妊娠・出産を控えたお母さん達が多くのリスクと不安の中にいることをできるだけ多くの方に知ってもらいたい、そしてそのことで社会全体が少しでも優しくなれば、そんな思いを込めてこれからの連載を進めて行ければと思います。それではまた次回お会いしましょう。