東奥日報夕刊の連載「知ってほしい赤ちゃんのこと」は今週が6回目です。今回は青森県の周産期医療の背景に関して述べてみました。これまで全国的な周産期医療・新生児医療の傾向に関して述べてきましたので、今回と次回で少し青森県内の状況をご紹介して行きたいと思います。
以下、6回目原稿です。
前回まで、全国で低出生体重児の出生数が増加していることを述べてきました。その理由をお話しする前に今回は青森県の周産期医療の背景を少しご紹介してみたいと思います。
本県の周産期医療で着目すべきは乳児死亡率・新生児死亡率・周産期死亡率といった各死亡率指標の悪さです。図に都道府県ごとの周産期死亡率を5年間の平均値とした全国順位の推移をグラフでお示しします。図では上位ほど死亡率が低く、周産期死亡率では特に平成以降の順位が下位に低迷しています。乳児・新生児死亡率も同様に常に全国の下位にあり青森県は歴史的にみても周産期関連死亡率の高い県であると言えます。
特に本県では乳児・新生児死亡の原因として、1000g未満で出生した超低出生体重児の死亡率の高さが大きく影響しています。平成11・12年は2年連続で全国ワーストでしたが、当時、在胎28週未満の超早産児の赤ちゃんの半分以上が亡くなっています。十数年前とは言え、当時の全国での死亡率は2割未満でしたので、かなり高い死亡率であったと言えます。県内では当時、1000g未満の小さな赤ちゃんは7つの医療機関で分散して診療され、各施設の年間入院数のほとんどが一桁でした。問題なのは個々の医療機関の医療水準よりも、こうした特殊な治療を要する患者さんが分散されていた点にあります。
こうした状況を打破するため、今からちょうど10年前の平成16年11月に県病に総合周産期母子医療センターが開設されました。同時に県病を本県の周産期医療の拠点とし、さらに八戸市民病院、弘前病院、青森市民病院、むつ総合病院を地域周産期母子医療センターとして、患者さんの重症度に応じた役割分担や搬送体制などを定める「青森県周産期医療システム」が構築されました。県病では現在、青森県内で出生する1000g未満の超低出生体重児のほぼ全てを診療しており、年間入院数は約30名前後となっています。その多くが出産前に搬送される母体搬送によって県内各地から運ばれ、県病で生命に関わる急性期の治療を終えると、その半数以上が地域周産期母子医療センターのある地元へ戻り(これを後搬送と言います)退院します。
重症な患者さんを専門に診療する医療機関を決め、そこに集めた方が治療成績が上がることは他の医療分野でも知られており、これを「集約化」と言います。県内の医療機関の協力による「集約化」が功を奏し、本県の平成25年までの周産期死亡率の5年平均値は、上から16位とようやく上位群に仲間入りすることができました。また昨年の各死亡率は乳児死亡率が3位、新生児死亡率が4位、周産期死亡率が3位という過去にない好成績でした。
ただ、我々医療従事者や行政・マスメディアはどうしてもこうした「数字」に目を奪われがちです。しかし、こうした数字の背景には一人一人亡くなられた赤ちゃんとそのご家族がいらっしゃいます。そのことを忘れてはならないことを、これは自戒の念も込めてここに書き留めておきたいと思います。さらに、救命されたとしても、様々な後遺症で悩まれている方たちも沢山いらっしゃいます。こうしたことも今後の連載の中でご紹介して行きたいと思います。