東奥日報夕刊の連載「知ってほしい赤ちゃんのこと」は今週が11回目です。今回は少子化対策がなかなか功を奏すことのない現状に関して述べてみました。
以下、11回目の原稿です。
前回、少子化の背景として経済・雇用面の問題をご紹介しました。男女雇用機会均等法が施行されたのが1986年。時代はバブルに向かっており、その3年後の1989年には栄養ドリンクのコマーシャルで「24時間戦えますか?」が流行語大賞を取るような時代でした。当時、男女の雇用は表向き平等にはなったものの「24時間働く」ことが前提の世界へ女性もそのまま放り込まれ、結果として女性は「仕事か?家庭か?」の二者択一を迫られます。
1992年の「平成4年版国民生活白書」に「少子」と言う言葉が登場して以来、社会的にも少しずつ少子化に対する懸念が表面化し始めます。その後、様々な少子化対策が一応は実施されますが、その効果が結果的に乏しかったことはこれまでご紹介してきた出生数や出生率の推移の通りです。なぜ、なかなか効果が出ないのでしょうか?
かつて「寿退職」という言葉がありました。今やほとんど死語なのではないかと思います。事実、統計上も結婚と同時の退職は実数として急減しています。しかし、一方で妊娠・出産に際しての退職は未だに大きな割合を占めています。
ここに興味深いデータがあります。図は第1子出産前後の妻の就業変化の推移を見たものです。過去と比較して、育児休業利用による就業継続率は年々上昇傾向なのですが、一方で出産退職の割合も増えているのです。これは少子化対策の多くが、正規雇用を中心とした層には一定の効果があるが、近年増加している不安定な雇用環境にいる若年女性に対しては手薄であることを示しています。もはや従来の少子化対策では対処できないところにまで至っており、制度が実態に追いついていないと言えるのでしょう。
さらに正規雇用の女性も安泰とはとても言い難い現状があります。女性の正規雇用就労率は20歳代後半までに50%前後へ上昇しますが、30歳代からは一方的に下降傾向となり、30歳代後半で正規雇用・非正規雇用の率が逆転します。これは正規雇用であっても妊娠出産を機に退職する(せざるを得ない)女性が多く、出産後は非正規雇用として復職している女性が多いことを意味します。
昨年の流行語大賞のトップテンの一つに「マタニティハラスメント(マタハラ)」が選ばれました。マタニティハラスメントとは一般的には、働く女性が妊娠・出産を機に職場で受ける精神的・肉体的な嫌がらせやプレッシャーを含むハラスメント(嫌がらせ)と定義されます。少子高齢化が大きな社会問題となり、少子化対策の必要性が叫ばれているにもかかわらず、マタニティハラスメントが流行語大賞とは皮肉としか言いようがありません。子どもを産み・育てることが社会全体の中でいまだ権利として理解されず、少子化対策と言いながら現実社会との間に乖離があることの証左かも知れません。だからこその少子化とも言えるのでしょう。
ようやくこのマタニティハラスメントに対して先月、厚生労働省は法律の適用を厳格にして企業への指導や監督を強めるよう全国の労働局に通達を出すことを決めたとのことで、今後その効果に期待したいところです。