東奥日報夕刊の連載 「知ってほしい赤ちゃんのこと」 は今週月曜日が19回目でした。 前回の小児医療費助成の自治体間格差問題 に引き続き、今回も小児医療費問題を取り上げてみました。
前回は青森県の多くの市町村における小児医療費助成の不備に関して述べましたが、今回は小児医療費の無料化が「コンビニ受診」を引き起こしかねない点に関して言及してみました。
本文でも述べていますが、結局は限られた予算をどのように配分するか?と言う点に関する「理念」の問題なのではないかと考えています。いずれにしても、本県の多くの自治体ではそもそもの小児医療費助成に対する予算規模が小さすぎますので、その見直しが先決であると言う点に関しては前回と同様ではあります。
以下、本文です。
前回は、本県の小児医療費補助が他県より手薄になっている現状を紹介しました。
一方、小児医療費の無料化は別の側面でしばしば問題視されます。安易に時間外受診する「コンビニ受診」の増加です。無料化が夜間・休日の受診数増加につながる可能性を考えると、問題は簡単ではありません。
青森県は小児科医が極めて足りません。夜間輪番制が組まれている地域もありますが、重症の入院患者を診療しながらの夜間の外来診療は、かなりの負担です。人口の少ない地域では、そもそも小児科医が数人以下のため、輪番どころかいつ呼び出されるか分かりません。
コンビニ受診は、こうしたギリギリの状況で維持されている「小児医療の質」そのものを下げてしまう恐れがあります。この問題は「患者さん対医師」の構図が強調されがちですが、実は限られた医療資源の適正利用を妨げるという点では、「患者さん同士」の問題がその本質と言えるでしょう。
ただ、世間的に問題視されるコンビニ受診ですが、その受診が本当に「コンビニ受診」なのかどうかの線引きは、これもまた難しいものがあります。
初めての赤ちゃんが生まれた親は、本当に些細なことが気になってしまうものです。小児科医である筆者ですら、最初の子どもが生まれた当時は、ちょっとした風邪で鼻づまりを起こすと、そのまま息が止まってしまうのではないかと心配で寝られませんでした。専門医にしてこんなものですので、医学的知識のない方たちが心配になっても不思議ではありません。
些細な症状から大事に至ることもまれではなく、結果論からコンビニ受診と断じることは好ましくないでしょう。しかし一方で、誰が見ても明らかな「コンビニ受診」が存在するのも事実です。
こうした背景から、特に夜間・休日の受診に対して、一定額を徴収するべきだという意見も耳にします。ただ、早産児の中には頻繁に風邪を引いたり、肺炎・気管支炎に繰り返し罹患し続けるお子さんも少なくありません。定額徴収が導入された場合、このような家庭では、親の所得によっては負担が大きくなりすぎて、本当に必要な時に受診できなくなる可能性も危惧されます。
それでは小児医療費の負担軽減と「コンビニ受診」の抑制と言う、この相反する二つの課題はどうしたら解決できるのでしょうか?
行政サービスとしての小児医療費に対する補助は経済的に困っている患者さんのご家族へ重点的に投じられるべきものであり、その意味では保険的な性格が求められます。本来のあるべき姿は親の収入にかかわらず子供達が適切な医療を受けることができるようにすることですから、限られた予算をどのように配分するかに関する理念を明確化することが、この相反する二つの課題を解くための鍵になるのではないかと思います。
いずれにしても、県内の多くの市部ではそれ以前の問題として小児医療費補助に対する予算規模があまりに小さすぎます。その前提として「親の所得によって子どもの医療を受ける権利が侵害されてはならない」という、県内全体のコンセンサス(合意)が必要なのではないかと思います。