昨日は医学生を対象とした弘前大学小児科の医局説明会があり、今回初めて「弘前大学小児科新生児グループ」代表として参加させていただきました。 最初に、以前、当院で1年間研修されていた三浦先生から小児科医局全般の節米があり、その後、各グループの説明となり、血液グループは伊藤教授、心臓グループは三浦先生、腎臓グループは渡邊先生、神経グループは当院の神経外来にも来ていただいている花田先生から、それぞれのグループに関しての説明がありました。





「新生児グループ」としては、青森県の周産期医療が現在に至るまでにどのように改善してきたのかから始まり、当院の診療実績と成績をお話しさせていただきました。


特に診療成績に関しては 「周産期医療の質と安全の向上のための研究(INTACT)」のワークショップ でもご紹介した 新生児臨床研究ネットワーク(NRN) の2009~2011年のランキングで上位にあり、特に神奈川こども方式を採用した2011年には全国77施設中のトップだったこと、さらには2013~2014年の2年間の60例近くで超体出生体重児の死亡例、重度の右室内出血、在宅酸素がゼロだったことをご紹介しました。


さらにこうした好成績の背景として、今年、当科の池田先生がEur J Pediatrに「 Changes in the perfusion waveform of the internal cerebral vein and intraventricular hemorrhage in the acute management of extremely low-birth-weight infants 」として発表した、超体出生体重児の脳静脈の「ゆらぎ」の評価が合併症の減少につながっていること、そして臨床病院でもこうしたしっかりした論文を出せることもお話ししてきました。

説明会の後は二次会で学生さん達と色々とお話ししてきました。


地方では自分たちが行った医療がその地域に対してどれだけ貢献しているかをしっかり手応えを感じることができることが大都会にはない地域医療の醍醐味なのではないかと言うこともお話ししてきました。なんとか、一人でも多くの将来の「仲間」が増えることを期待しながら、一足早く終電で帰路につきました。

先日、藤田保健衛生大学小児科の宮田昌史先生がスタッフの方達と一緒に、当科のNICU部門システムの見学に来て下さいました。新病棟ができる際にNICU部門システムも導入したいとのことで、特に母乳の取り違いなどのリスク管理を重視されているとのことで、当院のシステムにご興味を持たれたそうです。



当院の部門システムは特にリスク管理を最重要視しており、開発はかれこれ10年以上前までさかのぼりますが、母乳認証の導入も恐らく全国で(世界で?)最も早かったのではないかと思います。現在に至るまで、患者認証だけではなく、指示入力の支援機能と制限機能も網羅されており、このレベルまでに既存の電カルが達するまでにはまだまだ10年以上はかかるのではないかとの自負もあります。早くこうした安全機能がNICUで全国でも標準化されることを願っています。





昨年5月に私の当直回数が1000泊に達したとご紹介しましたが( 2014年5月9日 NICU当直1000泊目! )、昨夜はさらに1095泊目、つまり365日×3年で1095日ですので、2001年のNICU開設から14年半近くの間でちょうど丸3年間当直していたことになります。正確には2001年4月から今までが5250日で、その間1095日当直したので、平均すると4.79日に一度の割合になります。昨年の1000泊目の時も平均で約4.8日に1回の割合でしたから、昨年から同じペースです。
年齢ではNICU開設時点で40歳だったのが、現在は55歳になってしまいました。
昨年も書きましたが、よくこの年までこんなペースで15年近くも当直を続けながら身体も壊さずにやってこれたものだと思います。元々あまり身体は丈夫な方だとは思っていませんが、それでもこれまで大病することもなくやってこれたことには素直に感謝したいと思います。
ただこれまでを思い返してみると、当直明けはいつも疲れてしまって、とは言うものの当直明けも病院の規則で通常業務ですので普通に午後も夕方まで外来・会議と続くわけですが、日々のルーティンをひたすらこなすだけと言うことが多かったように思います。
当直回数が丸3年なら、当直明けの日も丸3年分あります。こんな無気力な時間を人生の中で丸3年間も過ごしてしまったと思うと、何ともやりきれない気持ちにもなります。当直の1日と言うのは、2日分ぐらいの重みがあると言うことなのでしょう。
現在、当科のNICU当直は5名で回していますが、本来は倍以上の医師がいて然るべきです。バックアップも考慮に入れるなら3倍いてもおかしくありません。
医師の夜間業務はあまりにも軽く扱われすぎているように思います。
昨年の1000泊目の時の結びをもう一度繰り返したいと思います。
しかしこれからを考えると、もうこんな馬鹿げた勤務体制は我々の世代でそろそろ終わりにしなければとも思います。労基法どころか過労死基準さえ軽くクリアするような勤務条件に辛うじて支えられるような医療に持続性などあるはずがありません。少なくとも当科に関しては、計画的な人材育成によって将来的に安定性のある医療提供体制をしっかり構築してから、次世代にバトンを渡したいと考えています。
もうそろそろ本当にこんな馬鹿げたことは終わりにしなければなりません。
東奥日報夕刊の連載 「知ってほしい赤ちゃんのこと」 は今週月曜日が20回目でした。今回から何回かにわたって母乳育児の話題を取り上げて行きたいと思います。

以下、本文です。
今回から何回かにわたって母乳育児の話題を紹介したいと思います。
赤ちゃんを母乳で育てることのメリットは、特に欧米を中心に膨大な科学的データが集積され、感染症に対する免疫効果や知能の発達に良いというデータもあります。こうした母乳育児の重要性を多くの方に知ってもらいたいと思うのですが、一方で、「母乳がなかなか出ない母親もいるのに追い詰めることになりはしないのか?」と言う懸念も度々耳にします。確かに母乳育児の重要性を発信・推進する側としては、こうした指摘に対して重々配慮していく必要があると考えています。
ただ、ここで重要なのは、母乳育児の重要性を誰に知ってほしいのか?という点です。
そもそもお母さんたちの多くは、いまさら母乳育児の大切さなど、他人から言われなくても十分知っているはずです。そして、できれば母乳で育てたいという希望を持っていて、その理由だって「ただ母乳で育てたいから」それで十分です。お母さんたちに母乳育児のメリットを第三者がことさら強調する必要などなく、むしろ「大きなお世話」と言うものでしょう。必要なのは母乳育児がうまくいくための正しい情報と支援です。
それでは、実際に母乳育児をしている方を取り巻く環境はどうでしょうか?お母さんたちに日々接していると、母乳育児を続けることに困難さを感じる場面が多々あります。特に早期に職場復帰されたお母さんにとって、母乳育児の継続は多くの場合かなりの困難をともない、諦めている方が多いのが実情です。
これまでも述べてきたように、働くお母さんが増えています。早産児のお子さんを保育所に預けると、「保育所で母乳を与えるのは無理」と言われるとよく耳にします。早産児は免疫能が未熟なので、早期の集団生活による感染のリスクを考えると、母乳を続けられるのに越したことはありません。にもかかわらず、現状では保育所で母乳を与えたいというのはぜいたくな要求となっているようです。
また、職場にも問題があります。母乳育児を続けるには、お母さんたちは職場でも数時間おきに搾乳をしなければ胸が張ってしまったり、結果として母乳の出が悪くなったりしてしまいます。しぼった母乳を後で赤ちゃんに飲ませるなら冷凍庫・冷蔵庫も必要です。しかし、多くの場合、お母さんたちはトイレで搾乳しては、保存する場所もなくそのまま捨てているそうです。これもまたよく耳にする話です。
保育所にしても職場にしても、そう簡単に理想的な環境が実現するとは思いません。特に保育所はぎりぎりの人員で運営されているところも多いので、一方的なことばかりは言えません。
それでは母乳育児の重要性は誰に対して伝えられるべきなのでしょうか? それはお母さんたちを支えるべき「社会」に対してではないかと思うのです。
正しい情報と支援さえ得ることができれば、ほとんどのお母さんは母乳で赤ちゃんを育てられると言われています。問題は、「母乳がなかなか出ない母親もいるのに追い詰めることになりはしないのか?」という言葉の陰に隠され、結果として母乳育児支援自体が社会からタブー視され、そのことによってお母さんたちへの支援がないがしろにされてしまっている現状にあるのではないかと感じています。
こうした、一見、思いやりがあるように見える社会としてのタブー視こそが、現実には母乳育児がうまくいかずに傷つくお母さんを増やしているということに、気づくべきではないでしょうか。母乳育児の重要性を知らなければならないのは、お母さんではなく、社会そのものではないかと思うのです。