2015.09.11
今日は青森県教育委員会主催で、県内の特別支援学校の先生を対象にした「平成27年度特別支援学校における医療的ケア基本研修」で「医療的ケアの必要な子どもの育ちと地域生活」と題して近くの県立保健大学で2時間ほどお話しさせていただきました。医療的ケアとは言っても、当院の場合、それほど多くの患者さんを診ているわけではありませんので、昨日の研修会では周産期医療からその後のフォローアップにかけての、お子さん達の発達や、小さく生まれたお子さんや病気を持って生まれたお子さん達の親御さん達の心情の変化などを中心にお話ししました。

「少子化なのになぜNICUが足りないのか?」と同じように、少子化なのに特別支援教育を要する児童も年々増加傾向です。当然、その全てが低出生体重児とわけではありませんが、こうして総出生数と極低出生体重児の出生数そして特別支援教育を要する児童数を一緒に並べてみると、多少なりとも低出生体重児の増加も寄与しているのではないかと思えるグラフです。

東奥日報の連載でも「NICUってどんなところ?」 と題して書かせていただきましたが、漫画「コウノドリ」での言葉にもあるように、今は単に治療をするだけではなく、NICUに入院→母子分離と言う異常事態からいかにして家族の絆を作り上げるためのお手伝いができるかが現在の新生児医療の中での大きな比重を占めていることをご紹介しました。


お子さんのことに限らずガンなどでもおなじですが、一般的にショックに対する反応として4段階とか5段階とかが知られています。ショック→否認→悲しみと怒り→適応から再起と言う段階を経ると言われますが、いったん再起しても、その後もおそらくは何度も気持ちは、例えばフォローアップでの心理検査の結果やお子さんの日常生活や行動によって不安と期待の中で揺れ動くのではないかと思います。それはあたかも傷が治ったと思っていたら「かさぶた」が取れて再び血が流れてしまう様子にも似ている気がしています。言ってみれば「心のかさぶた」みたいなものでしょうか?
特別支援の先生方が日頃接していらっしゃるお子さんのご両親がどのような就学に至る前にどのような課程を経てきたのかを、少しでもご紹介できればと言う思いでお話しさせていただきました。

低出生体重児のお子さん達のフォローアップで注意している点もご紹介しました。特に視力・聴力は発達の土台になりますので、極めて重要な位置を占めていると考えています。特に視覚認知機能は4~5歳までに固まってしまうそうなので、3歳時点の心理検査で認知機能が低値の場合には眼科受診をお勧めするとともに、先日見学させていただいた 青森盲学校に併設されているロービジョンセンター へもご相談していただくようにお勧めしています。

発達の検査はだいたい毎年行っていくのですが、生まれた月によって多少の違いがあります。例えば、超体出生体重児の多くは3~4ヶ月は早く生まれますので、その多くは予定日通りに生まれていれば1学年下のはずのお子さん達です。それが 早産によって「飛び級」することの問題 は以前、東奥日報の連載でもご紹介させていただきました。問題はそれだけではなく、早生まれのお子さん達は満6歳の検査をした頃にはすでに就学先が決まってしまっていると言う問題もあります。このため、教育委員会による就学前検査を受けた方が良いかどうかの判断は5歳時点の検査で判断しなければなりません。さらに、検査と検査の間隔が近いと互いに干渉し合う可能性があるので、ある程度の期間を離す必要もあります。フォローアップでの発達検査ではこうした点にも配慮が必要なこともご紹介してみました。

障がいは複数の種類が程度も様々に組み合わさりますので、お子さんに対する支援は個別に対応していく必要があります。そのためには、医療だけではそうにもならないことが多く、福祉・教育との連携が欠かせません。今回のような機会から領域を超えた連携につなげて行ければと思っています。この度はこのような機会をいただきありがとうございました。また参加された皆様もお疲れ様でした。


2015.09.10
東奥日報夕刊の連載 「知ってほしい赤ちゃんのこと」 は今週月曜日が21回目でした。今回も前回に引き続き母乳育児の話題を取り上げました。母乳育児では、よく「母乳にこだわる」という表現が使われますが、今回はどうして「母乳にこだわる」という表現になってしまうのか、その理由を考えてみました。

以下、本文です。
母乳育児に対して、よく「母乳にこだわる」という表現が使われます。今回はどうして「母乳にこだわる」という表現になってしまうのか、その理由を考えてみたいと思います。
まず、母乳分泌の仕組みを知っておく必要があります。母乳分泌には「プロラクチン」というホルモンが欠かせません。このホルモンは脳の下の方にある脳下垂体から分泌され、母乳を分泌させる作用があります。プロラクチンは妊娠中から血中濃度が上昇しますが、妊娠中には母乳はほとんど出ません。それは胎盤からプロラクチンの作用を抑える別のホルモンが出ているからです。赤ちゃんが生まれると一緒に胎盤も出てくるので、そこで初めて母乳分泌が始まります。しかし胎盤からのホルモンの値が下がるのには数日間かかります。お産直後からすぐにたくさんの母乳が出ないのはこのためです。
産後、赤ちゃんがお母さんのおっぱいを吸った時(これを吸啜(きゅうてつ)と言います)、プロラクチンの血中濃度は一時的に急上昇します。逆に吸啜刺激がないと、プロラクチンの血中濃度は1週間ほどで妊娠前の値まで急降下すると言われます。短い間隔で何度も授乳を行い、赤ちゃんに頻繁におっぱいを吸ってもらうことによって、プロラクチンの下降を抑え、その値を維持させているのです。
一方、この間におっぱいの方にも変化が起きています。お産の後、継続的に何度も吸啜刺激を受けプロラクチン値が維持されることによって、母乳を分泌させる乳腺細胞が、プロラクチンの作用を受けやすいように変化していくのです。お産から2週間も過ぎると、授乳回数の多いお母さんでもプロラクチンは低下しますが、お母さんのおっぱいの方が変化することで、低い値でも母乳が分泌できるのです。
以上をまとめると、母乳の分泌には赤ちゃんが頻回にお母さんのおっぱいを吸啜する必要があるということになります。
しかしここで、生後まもなくから人工乳をどんどん飲ませるとどうなるでしょうか?
生まれたばかりの赤ちゃんの胃袋は、そもそもそれほど多くの乳汁を飲めるようにはなっていません。赤ちゃんの胃袋の内容量は生後1日目で6㍉㍑、3日目でも25㍉㍑程度です。人工乳は母乳に比べて消化が遅く「腹持ちがいい」ため、人工乳をたくさん飲まされた赤ちゃんはお母さんのおっぱいをあまり吸ってくれなくなります。つまり、人工乳をどんどん飲ませることは、母乳を出なくしているのと同じことと言えます。逆に母乳はとても消化がいいので、赤ちゃんはおなかが減って泣く感覚が短くなります。これが「おっぱいが少ないのではないか?」という誤解を生む原因にもなりますが、本当は赤ちゃんに数多く吸啜してもらうためにうまくできているとも言えるのです。
ここで最初の話に戻します。なるべく人工乳を加えず赤ちゃんに何度も吸啜の機会を与えることが、こうした仕組みを理解していない人から見ると「母乳にこだわる」ように見えるのでしょう。しかし、お母さんが「母乳で育てたい」という希望があるなら、人工乳をたっぷり飲ませながらでは、その希望には応えられないということになります。
ただし、これには個人差があります。いくら吸啜させても母乳の量が増えないお母さんもいれば、どんどん人工乳を飲ませてもいつの間にか母乳だけになっているお母さんもいます。母乳育児を語る上で難しいのは、こうした個人差の大きさであり、さらに言えば、母乳の効果なども含めてすべて確率論でしかないという点です。この辺のお話は、また次回以降にしたいと思います。
2015.09.07
週末は、今年度一杯で定年を迎える当院副院長の安保亘先生を囲んで、かつてのお弟子さん達が浅虫温泉に集結して囲む会を企画開催しました。会場は以前から青函小児科懇話会で使わせていただいていた浅虫温泉の「椿館」です。

懐かしい顔ぶれがぞくぞくと集まってきます。

酔っ払う前にと撮影した集合写真です。

到着次第、次々とツーショットを撮影。

司会は今回の発起人でもある函館市立病院の酒井先生です。


東京に行った遠海先生の挨拶中。手前は山本先生。

お酒を飲むと顔が真っ赤になるのは相変わらずの福村先生。

奈良県から来て下さった土井先生とのツーショット。

酒井先生より記念品の贈呈。

二次会です。話は尽きず、深夜まで続きます。


翌朝は平川先生と房川先生がNICUの見学に来て下さいました。

20年の長きに渡って大勢のお弟子さん達を育ててこられた安保先生を囲んで、昔話に華が咲いた盛会となりました。安保亘先生ならびに参加された皆さん、ありがとうございました。
2015.09.03

先日、ステファニーの修理と部品要求提供を今月末で終了するとのお知らせがアトムメディカルさんからとどきました。とうとう来るべき時が来てしまったか!と言う思いです。


ステファニーは新生児に対する比例補助換気(proportional assist ventilation;PAV)が可能な唯一の人工呼吸器としてドイツのステファン社で開発され、日本では2002 年10 月からアトムメディカルさんから販売が開始されました。PAVをはじめ、それを支える独自のバックアップ換気機構を備え,さらにHFOや呼吸機能計測も可能であるなど非常にポテンシャルの高い人工呼吸器で、当院の超低出生体重児の長期呼吸管理のほとんどは本機のPAVモードに依存していると言っても過言ではありません。
しかし、開始時にシステムチェックを要する、独自の加温加湿器を有する、回路内の凝結水に弱いなど、本機の使用に慣れないユーザーにとっては使用に際してハードルが高いという一面もあり、わが国では2009 年1 月に販売が終了してしまいました。PAVという、HFOに次ぐ新たな呼吸管理分野を形成し得る可能性を秘めた機種であっただけに国内販売終了は非常に残念な気持ちで一杯でした。
グローバルでは、お隣の韓国も含めて、既に現在我々が使用しているバージョンよりも新しいモデルが使用されており、それらでは上記の欠点のいくつかは改善されています。結果として、日本だけが新生児の人工呼吸管理分野において、PAVの導入では遅れをとってしまったことになります。
PAVの良さは、これは実際に使った経験のない人には恐らく理解できないのではないかと思います。一見、普通の陽圧換気に見えますが、通常のSIMVなどと比較するとはるかに低い最大吸気圧で十分な酸素化を得ることができます。PAVでは比較的CO2が高値になりやすい傾向がありますが、見方を変えると十分な酸素化を維持しながらも容易にPermissive Hypercapniaを実現できる換気モードとも言えます。CLDがあってもPAVにのせておくだけでそのうち良くなってしまいます。
これまでどれだけの赤ちゃんの肺を良くしてきてくれたか!本当に感謝しかありません。今後もステファニーは動く限りは使い続けますが、修理不能となってしまえば、次に故障すれば、それは即引退を意味します。すっかり「おばあちゃん」になってしまったステファニーですが、なんとか少しでも長生きして欲しいと願うばかりです。
2015.09.02
5月31日(日)に 青森県重症心身障害児(者)を守る会 の研修会 が青森市内のアピオあおもりで開催されたことを以前ご紹介しましたが、同会の広報誌である「ともに・・・」に当日の様子が掲載されました。シンポジウムの様子とkamekaiの石田さんのご発表も掲載されています。


当日のスライドより


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こちらはkamekaiの石田さんの発表です。


会報にもありますが、この当日は閉会後も関係者の意見交換会が引き続き行われました。「今後も同じメンバーで集まりましょう」と言うことになったので、また近日中に意見交換会を計画したいと思います。皆さん、今後ともよろしくお願いいたします。