2015.10.25
週末の10月23~25日は盛岡市内で 第60回日本新生児成育医学会学術集会 が開催されました。今回の学会はさかいたけお赤ちゃんこどもクリニックの堺武男先生が会長の学会ということで、私たち東北地方の新生児科医もThe Team TOHOKUとして企画・立案段階から微力ながらお手伝いさせていただきました。

堺先生は「寄り添って、寄り添われて―新生児・小児医療の現場から」と言う本を出されていて、今回の会長講演である「寄り添う医療への道のり」もこの本に書かれていることが中心にあったように思います。

堺先生のご講演で
「最も大切なことは子供達が育ち生きることそのものであり、家族が『共に生きること』である」
「『患者さんの立場で考えています』というのは医療者にとって多分傲慢なのだ」
「本当の意味で患者さんの立場には誰も立てないことを認識し、だからこそ、その立場に近づこうとする、限りない歩み寄りが寄り添うということなのだろうか」
「小児科医の究極の生き甲斐とは、実は患者さんであった子供達にきれいさっぱり忘れてもらうことだと信じている」
と言う言葉の数々はまさに名言であり、心からその通りと頷きながら聞いておりました。
陰ながら師匠と仰ぐさすが堺先生としか言いようがありません。




お昼からの総会のあとには功労会員の表彰式がありました。今回は今年の春に東邦大学佐倉病院をご退官された沢田健先生が代表して表彰状を受け取られました。実は沢田先生は今回の学会の前に青森まで旅行されていて、当院のNICUにも見学でお越しくださいました。沢田先生は新生児医療のメーリングリストである「 新生児医療フォーラム 」の創始者のお一人でもあり、その後の管理人を私たちの世代にバトンを渡してくださった先生でもあります。個人的には堺先生とともに師匠と仰ぐもう一人の先生です。


学会初日の夜は懇親会です。The Team TOHOKUとして東北地方の新生児仲間の先生方をご紹介してくださいました。


学会2日目以降はまた続きをアップしたいと思います。
2015.10.21
東奥日報夕刊の連載 「知ってほしい赤ちゃんのこと」 は今週月曜日が22回目でした。今回も母乳育児の話題の続きです。今回は災害時の授乳援助に関して述べてみました。

以下、本文です。
日本は、飲み水や電気、清潔さがまるで「空気」のように存在する世界でもまれな国です。その点で言えば、「世界で最も人工乳(ミルク)栄養を安全に与えられる国」と言っても過言ではないでしょう。
しかし、一度災害が起こると「当たり前」が損なわれる場合があります。東日本大震災のような大災害はまれとしても、停電が起きただけで、マンションでは断水することがあり、オール電化住宅では熱源も使えません。
表は、災害時の赤ちゃんに必要な物品をまとめたものです。人工乳で育てる場合、たくさんの物品が必要になります。
まずは大量の水。ミネラル分の少ない軟水でなければならないので、ペットボトルの水でも適さないものがあります。
また災害時は、ほ乳瓶、特に人工乳首の部分を清潔に保つことが難しくなります。仮に消毒薬があったとしても、十分な洗浄ができなければ効果はありません。非常時には、代わりに使い捨ての紙コップが役立ちます。
湯冷ましも必要ですが、雑菌の混入防止のため一度沸騰させたものが必要です。適温に温めただけのお湯ではだめなのです。
清潔さが保たれないと、授乳期の乳児は簡単に細菌性腸炎を起こしてしまいます。災害時では生命の危機に直結します。その意味で、授乳期の乳児は災害時で最も弱い存在と言えるでしょう。加えて、災害時の備蓄として粉ミルクだけ用意していても、大量の水と熱源がないと役に立たないということを強調したいと思います。
それでは、母乳で育てるお母さんに対する望ましい支援とは、どのようなものでしょうか?
災害時は、ショックや不安のため、母乳の分泌量が少なくなることがあります。しかし、人工乳が必要と考えるのは早計です。
母乳分泌量が減ったからと言って、すぐに赤ちゃんに人工乳を飲ませると、逆に母乳分泌量が減少してしまいます。災害時には感染症もまん延しやすく、このような環境でこそ、母乳に含まれる感染防御因子が赤ちゃんを守る大きな役割を果たします。
多くの場合、精神的ストレスで母乳分泌量が減少するのは一時的であることが多く、むしろ重要なのは、授乳中のお母さんたちへの支援と配慮です。具体的には、飲み物や食べ物や毛布などの提供と、少しでも安心できる環境づくりでしょう。
周囲への事情説明も大切です?母乳分泌量の減少は一時的であることを伝え、頻回授乳を続けること。仮にお母さんたちが十分な水分や食料を得られていなくても、数週間ならそれまでと変わらない栄養分の母乳が分泌されることも伝える必要があります。
避難所では、プライバシーの確保も重要な課題です。人混みの中で授乳しても目立たない授乳用の衣服を用意しておくのも有効です。災害時だからこそ、母乳育児が継続できるような温かい支援が必要なのです。
表に示したように、人工乳の赤ちゃんに比べ、母乳だけで育てられる赤ちゃんに必要な物品はわずかです。母乳育児をするお母さんの比率が高い方が、結果として、人工乳栄養児への支援も重点的に行いやすくなります。その点から言うと、母乳育児支援は、災害対策としての側面もあるのです。
2015.10.18
ドラマ「コウノドリ」がついに始まりました!リアルタイムで観ることができず、ようやく録画で観ることができました。コミックモーニングで連載中の原作漫画は、ちょっと出遅れて昨年秋から読み始めました。「コウノドリ」の名前だけは以前から知っていたのですが、出張の際にKindleでまとめ買いして新幹線で1巻から4巻まで一気読みしたのが最初の出会いでした。新幹線の中で泣きながら漫画を読んでいる変な人になってしまいました。以降のすでにコミックは全巻読んでいますし、今はコミックモーニングでも毎週愛読しています。ちょうど東奥日報の連載も始まったばかりの頃でしたので、 東奥日報連載3回目「NICUってどんなところ?~NICUは赤ちゃんが育つ場所」 と題して「コウノドリ」も紹介させていただきました。

さて、ドラマの方の「コウノドリ」ですが、主人公の綾野 剛さんをはじめとして漫画の世界観がそのまま再現されていると感じました。しかも世界観と言えば周産期医療の世界観までも、現場の視点が忠実に再現されていることには驚きを禁じ得ません。周産期医療に携わる者にとっての日常は、ある意味、普通に社会生活を送られている方にとっては非日常なのではないかと思います。漫画を最初に読んだ時、社会に大きな影響を与える可能性を秘めた漫画だと直感しましたが、これがテレビというさらに大勢の方達に視聴されることは、周産期医療にとってと言うよりも、この社会に暮らす人々の生活がよりよいものになるために大きな力となり得るドラマだと感じました。

ドラマ中のNICUはセットだそうですが、これまたもの凄いリアリティと感心してしまいます。

綾野さんもすっかりサクラですね!

個人的にはお子さんの誕生日にも家に帰れない新生児科の先生の後ろ姿に共感してしまいました。

エンドロールには監修としてサクラのモデルとされる萩田先生の他、神奈川県立こども医療センターの豊島先生や、宮城県立こども医療センターの室月先生もお名前を連ねられていますね。

初回からかなり入れ込んでしまいましたが、また来週以降も毎週楽しみにしています。
2015.10.17
昨日の「あさチャン」で昨日から始まった金曜ドラマ「コウノドリ」の放送開始にあわせて、新生児医療の現場として今回のドラマに撮影協力もされている神奈川県立こども病院のNICUが取り上げられました。豊島先生が熱い思いを語られるとともに、人材育成の問題も取り上げて下さり、当院から神奈川県立こども病院で研修中の伊藤先生もインタビューに答えていました。







緊張のためかやや堅めな表情の伊藤先生です。



ドラマ「コウノドリ」自体のお話しはまた別の回でご紹介したいと思います。
2015.10.14
10月4日(日)に仙台市で開催された第34回東北・北海道小児科医会総会の小児在宅医療シンポジウムでの発表をまとめてみました。今回は小児在宅医療を行っているお子さんのお母さんは働けるのだろうか?と言う観点からお話しさせていただきました。

今年3月5日の東奥日報に 「医療措置必要な我が子 どう育てていけば・・・」「受け入れ施設なく 母苦悩」 と題した記事が掲載されました。今回の発表はこの記事の延長上にあります。


「小児在宅医療」と「母親の就労」と言うと、これはほぼ真逆の概念と言っても良いぐらいはないかと思います。しかし、これまでの 東奥日報の連載 でも何度も述べてきましたが、いわゆる「女性の社会進出」はバブル崩壊から就職氷河期以降の雇用の不安定化を背景として、その実態としては「進出」と言うよりも「働かざるを得ない」と言う側面が大きいのではないかと思います。



こうした社会・経済的な状況下では「小児在宅医療を要する障がい児を持った親は経済的不利益を被る」と言うことを意味しているのではないかと感じています。


今回の抄録には
現在の小児在宅医療を支える基盤は非常に脆弱であり、家族に大きな負担を強いることでて辛うじて成り立っている。国はNICU病床不足や医療費抑制のための対策として在宅医療を推進してきた。日中一時支援事業等の諸制度が整備されてはいるが、母親の就労と言う観点から見ると理想にはほど遠い状況がある。
在宅医療の推進は医療費削減と言う点では一定の効果があるのだろうが、見方を変えると、それまで全く別のスキルを築き上げ社会人として働いていた(主に)女性を、生まれてきた子どもに障害があると言う理由で、それまで行ったこともない医療的行為を、しかも親子が1:1と言う非効率な方法で家庭に縛り付け、それまでに培ってきた社会人としてのスキルを結果的に放棄させてしまっている。これでは医療費が削減されても、社会全体としては極めて非効率なことをしているとは言えないだろうか?
本県の新生児医療はこれまで極めて高かった乳児死亡率の改善を目指して政策医療の一環として整備されてきた。しかし、在宅医療に限らず何らかの障がいを持って退院した児とそのご家族に対してのサポートは極めて貧弱である。政策医療として行ってきた医療は結果的に「助けっ放し」になってしまっている。
生まれてきた子どもに障がいがあった場合、このように預け先探しもままならない現状は、障がい児の親となることが結果として経済的不利益を招いている。在宅医療に関わる枠組みを「母親の就労」「障がい児の家庭の経済環境」と言う視点で今一度見直す必要があるのではないかと考える。
と述べましたが、それをイラスト化したのが下の図です。


小児在宅医療に限らず、一般に「支援」と言った時、そこに明確なアウトカムが設定されていないことが多いような気がしています。小児在宅医療に対する支援に関して「小児在宅医療をしている母親は働けているか?」と言う点に焦点を当てた見直しがなされる必要があるのではないかと思います。そしてスローガンとして「全ての女性が輝く社会作り」を高々と掲げるのであればなおさらのこと、小児在宅医療に関わる母親達でも働くことのできる環境整備が必要なのではないかと思います。


