青森県の地元紙の一つであるデーリー東北新聞で「 青森県の赤ちゃん死亡率、改善傾向 浮かぶ新たな課題 」と題した記事が掲載されました。
小さく生まれて救命されても後遺症が残るお子さんへの支援の問題に関しての報道で、この春からの「成育科」も取り上げて下さいました。
以下、記事本文です。

(作業療法士とリハビリに取り組む石田望笑ちゃん(右)。わが子の成長に由紀さん(左)がほほ笑む=1月下旬、青森市)
全国ワーストクラスに低迷していた青森県の赤ちゃん死亡率が近年、改善傾向を見せる中、新たな課題が浮かび上がってきた。かつて救えなかった命を助けられるようになった一方、障害や病気などを伴って生まれてくる場合も少なくなく、母親が仕事との両立が困難となったり、頼れる情報が不足していたりするなどの問題に直面している。新たな課題克服に向けて、子どもとその家族を支える仕組みが求められている。
今年1月下旬、青森市のあすなろ療育福祉センター。
「やったー」。作業療法士に指導を受けながら、パズルを完成させた石田望笑(いした・のぞみ)ちゃん(3)=同市=が両手を挙げて喜んだ。日常生活の動作を学ぶリハビリの一環で、わが子の姿に母親の由紀さん(41)が「前よりもできるようになった」とほほ笑んだ。
由紀さんにとって、第3子である三女の望笑ちゃんは2012年5月、641グラム、29センチで生まれた。妊娠6カ月でおなかの違和感を訴え、搬送先の県立中央病院で緊急帝王切開の末に誕生した。
その後、同病院総合周産期母子医療センターで5カ月間を過ごした望笑ちゃんは幾度となく、生命の危機を乗り越えてきた。由紀さんは「子どもの命を生かしてほしいというのが、親の思い。先々のことは考えられなかった」と振り返る。
間もなく4歳を迎える望笑ちゃんだが、知的な遅れがあり、視力も弱い。風邪をひくと重症化しやすいなどの特徴がある。月2回それぞれ、あすなろ療育福祉センターと県立盲学校に通っているほか、耳鼻科に週1回、秋田県にある眼科には月1回など、通院が欠かせない。2月も急性気管支炎となり、5日間入院したばかりだ。夫(41)と共働きで、市内で事務職として働く由紀さんは、職場の理解を得ながら、通院や入院のたびに仕事を休んだり、持ち帰るなどして、やりくりをしている。
由紀さんは県内の新生児集中治療室(NICU)を退院した赤ちゃんを育てる親に呼び掛けて「あおもりNっ子くらぶ」を結成し、互いに情報交換している。
だが、母親の悩みの中には、保育園で子どもを受け入れてもらえず、働けないなどの声もあるという。由紀さんは「核家族化が進み、共働きの時代の中、収入が断たれ、生活が成り立たない」と訴える。
これまでにはなかった課題だけに、情報も不足している。「お年寄りにとってのケアマネジャーのように、小児にもフォローしてくれる人がいれば」と由紀さん。高齢者が介護サービスを利用する際は専門知識を持ったケアマネジャーが付き、サービスの調整をしたり、関係機関と連携を図ったりできるが、小児の分野にその仕組みはほとんどない。いくら制度や支援があっても、親が知らなければ活用されることはない。
由紀さんは「いつ、誰がどんな病気や障害になるか分からない。生かされた命を大事にしてほしい。どんな人にとっても優しい社会になって」と呼び掛ける。
退院後支援 「成育科」立ち上げへ
青森県立中央病院総合周産期母子医療センター新生児科部長の網塚貴介医師によると、県内の赤ちゃん死亡率が改善した最も大きな要因は千グラム未満の赤ちゃんの救命率向上だという。石田望笑(いした・のぞみ)ちゃんのように千グラム未満で生まれるケースは県内では現在、年間30例ほどある。同センターでは、2016年度から網塚医師が専任となる「成育科」を開設し、退院後の赤ちゃんのフォロー体制の拡充を目指す。
低体重で生まれた赤ちゃんのどれくらいに障害や病気があるかを示す統計はない。だが網塚医師は、肢体不自由、知的障害、視覚障害、聴覚障害、発達障害に加えて、医療的ケアが必要など、抱えるハンディは「さまざまな組み合わせや程度があり、千差万別」と解説する。年齢によっても状況は異なってくるという。
これまでも網塚医師は新生児科と兼務し、週2度の外来などで退院後の赤ちゃんをフォローしてきたが、同時にもどかしさも感じていたという。社会的な支援が乏しく、家族が置かれる状況について「レスキュー隊が海の中に浮輪だけを置いてきた感じだ」と指摘。付き添いなどで親が働けない、保育所が見つからないなどの問題のほかに、幼いために障害の認定ができず、必要な支援を受けられなかったり、就学先選びに悩んだりするなどのケースを目にしてきた。
16年度からは、網塚医師が専任として成育科を担当するため、これまでよりフォローする時間が増え、より子どもや家族の状況を知ることができるという。「病院ができることは限られていて、どこまでできるのかは手探りだ。ただ、学校や保健師、地域などと連携し、少しでも親御さんのお手伝いができれば」と力を込める。