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成育科ブログ

2016.05.20

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先日、 新生児医療連絡会 が創立から30周年を迎えたとのことで刊行された記念誌が送られてきました。
連絡会30年誌表紙 (Custom)

新生児医療連絡会では東北地方代表としての役員をかれこれ10年ほど努めさせていただきました。新生児医療連絡会では特に医師不足とベッド不足が深刻だった頃、医療政策の決定過程など世の中の仕組みをたくさん学ばせていただきました。ここでの仕事にはとてもやりがいを感じており、また人一倍思い入れも強かったところもありましたが、この春の「成育科」への異動を機に役員の職からも降ろさせていただきました。この記念誌刊行がちょうど個人的にも新生児科医を辞める時期と重なったこともあり、今後の新生児医療を担っていく「次の世代」の皆さんへのエールとして、その思いを書かせていただきました。ある意味「新生児科医としての遺言」みたいなものかな?とも感じています。

本文中にも述べていますが、これからの新生児医療はこれまでの患者過剰と医師不足に喘いできた時代とはまた全く異なった問題を抱えることになるだろうと思います。これまで以上の難題解決のためには今の30代、40代の世代の先生方の力が必要です。困難を乗り越えてさらなる発展を遂げることを心より願っています。

連絡会30年誌1 (Custom)

連絡会30年誌2 (Custom)

以下、本文です。

新生児医療連絡会創立30周年を心よりお祝い申し上げます。今日の新生児医療体制が形作られたのも先人の諸先生によるご努力があってこそと思います。その恩恵で育った世代の一人として心より敬意を表します。またこの歴史ある本会で、かれこれ10年も幹事の末席に加えていただいたことは本当に光栄に思います。
我々の世代は新生児医療黎明期にご苦労されてきた諸先生の背中をみて育って参りました。しかし、現在の若手の先生方にとっては、もはや今の新生児医療体制も空気のように感じられている方も多いのではないかと思います。
この10年程、世間的には少子化が進行し将来の人口減少も懸念される中、低出生体重児の出生数だけは増加すると言うパラドクスの中にありました。2008~2009年にかけてはNICU不足が社会問題化しマスメディアでも頻繁に取り上げられました。こうした背景からNICU適正病床数見直しに伴う整備費関連予算もかなり出されました。新生児医療に携わっている側からすれば病床不足なのだから当然と考えがちですが、これも本会が中心となり全国の先生方のご協力の下、国に対して説得力あるデータを出せたからこそなし得たことだと思います。
一方、この低出生体重児出生ラッシュは人口動態統計を見る限りそろそろピークを過ぎつつあります。全国の低出生体重児出生数は2006~2007年がピークでした。低出生体重児の出生数を母親の5歳階級年齢別にみると、実は出生数のピークであったこの頃でさえ、35歳未満の母親から生まれた低出生体重児はすでに減少局面にありました。それでも低出生体重児が増え続けたのは35歳以上の母親からの出生数が急激に増加し、それが下支えしていたからでした。
今後、我が国の女性人口は団塊ジュニア世代をピークとしたボリュームゾーンの高齢化に伴い、35歳以上の出産可能女性人口さえも減少局面に入ります。低出生体重児の出生数は5歳階級年齢ごとの女性人口×出生率×低出生体重児出生率の総和によって求められます。全出生の95%以上は20歳以上の母親から出生し、20年後の20歳はすでに生まれていますので20年後までの女性人口は極めて正確に推計可能です。ここで、現時点の女性人口あたりの低出生体重児出生率を元に今後20年間の低出生体重児出生数を試算したところ、今から10年後には低出生体重児出生数は平成初期の水準に戻り、20年後には極低出生体重児の出生数は年間6000人を下回るという結果となりました。
ここでさらに大きな問題が控えています。若年層の大都市圏への流出による地方における出生数の加速度的な減少です。過去20年間の都道府県別総出生数の減少率は、トップが秋田県で青森県がそれに続き、上位5県は宮城県を除く東北5県で占められます。青森県の出生数は過去20年間でちょうど40%減少し、2009年に1万人の大台を割り込んで以降、その5年後の昨年には9000人をも下回りました。お隣の秋田県は6000人を切ってしまい、一番少ない鳥取県では年間4500人しか出生数がありません。これがさらに減っていくわけですから、今後、こうした出生数減少の激しい地域では人材育成さえ困難になるのではないかと懸念しています。
一方、人口が流入する側の大都市圏では、恐らく今後もしばらくは現在とそう大きく変わらない状況が続くのかも知れません。こうした背景の違いが今後さらに鮮明化することは、地方と大都市圏における問題意識の乖離さえも産み出して行くのではないかと懸念します。
これまでは低出生体重児の増加が危機的と言うことで厚生労働省に対しても強気の姿勢で臨むことができましたが、これからの世代の先生方は患者総数が減る時代を生き抜くための知恵を持たなければなりません。古来より、戦は領土拡大をしている時よりも「撤退戦」の方が難しいと言われます。これからの新生児医療はまさにこうした「撤退戦の時代」に間もなく直面します。
冒頭で、あえて「空気のように」と申し上げましたが、今我々が働いている新生児医療体制はなんの努力もなく維持できるものではありません。ましてや、これからは恐らくこれまで以上に困難な時代を迎えるのではないかと思います。これを乗り越え、さらなる発展を遂げるには、まずはこの新生児医療連絡会に所属する各施設の諸先生ひとりひとりが参加意識を持って望むことが何よりも大切です。都会か地方か、施設の大小、大学か一般病院か、そんなことは一切関係ありません。日本の新生児医療がどうして行ったら良いのか?どうあるべきなのか?本会会員ひとりひとりが真剣に考え、そしてその叡智を結集していただきたいと思います。若い次世代の先生方の力こそがこれからの難しい時代を切り拓く鍵となります。
本格的な少子化が進行するであろう次の10年後には私たちの世代でさえもう定年です。今の30代、40代の先生方の台頭を心から期待するとともに、その若手の台頭を歓迎する新生児医療連絡会でこれからもあり続けて欲しいと願っています。

(文責 成育科 網塚 貴介)

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