今回の学会で人工呼吸管理に関して思うところがあったので少しだけ。
学会初日は「呼吸」セッションの座長でしたが、その直前に気になる演題があって質問に立たせていただきました。カナダのトロントに留学されている諫山先生が、最近の非侵襲的な呼吸管理法に関する論文をまとめて、何が一番優れているのか?と言う点に関するご発表で、非常に興味深く拝聴しました。またこのような難解な解析方法なども全くできない一介の臨床医なのですが、ただ素朴な疑問として、海外の論文では研究方法(study design)は当然しっかりされているのですが、例えば超早産児の死亡率だとか脳室内出血や消化管穿孔と言ったメジャーな合併症の発生率が日本の平均値よりはるかに高い研究論文が本当に参考になるのか?と言う点に関して質問させていただきました。日本の成績では良すぎるとしても、それでも現時点で世界的に平均的・標準的な死亡率・合併症発生率を設定した上で、その条件を満たす論文のみを対象とする検討があっても良いのではないかと言う気がしました。

(学会のWeb抄録の一部を貼り合わせており、抄録の全文ではありません)
こちらの写真はちょうどその時の様子を神奈川県立こどもの豊島先生が撮って下さったもので、豊島先生のブログ「 がんばれ!!小さき命たちよ 」からちょうだいしました。
学会2日目には伊藤先生がポスター発表で「超早産児の慢性期呼吸管理におけるサーファクタント(STA)補充療法の有用性について」と題して、最近の当院における超早産児に対する人工呼吸管理のまとめ的な発表をして下さいました。新生児科からの発表なので、もう僕の名前はありません。
ポスターは何枚もあったのですが大事なのはこの1枚です。調査の対象は2013年から2015年までの3年間に当院NICUに入院した在胎28週未満の超早産児です。70数名の入院のうち、早期新生児死亡は1例のみ。調査対象となった72例中、退院時に在宅酸素になったお子さんは1名のみでした。同じ調査を出生体重で行うと約90名の超低出生体重児の入院があって、早期新生児死亡は同じく1例のみ、在宅酸素はゼロ例でした。しかも、ステロイドの全身投与例もおそらくは他施設の一般的な使用率よりもかなり低いはずです。今回の伊藤先生のこのポスターの成績には、人工呼吸管理に詳しい先生方からもかなり驚かれていました。今回の学会で最も誇らしく思えた時でした。
人工呼吸管理の成績は施設間でまだまだかなりの格差があると言われています。ただ、エビデンスと言われると、単独施設の成績で何が言えるわけでもなく、また世界的な趨勢からは早めの抜管で非侵襲的にと言うのが主流となりつつあります。それはそれで良いのかも知れませんが、一定以上の生存率と合併症発生率の低さのレベルでそれが本当に正しいのか?と言う点に関しては個人的に疑問を感じているところでもあります。そうした歯がゆさを感じつつも、まずはこうした成績をしっかりした論文の形にして世界にうったえて行く必要があると思っているところです。
(文責 成育科 網塚 貴介)