2016.07.22
今日は公明党大阪府議会議員団の皆さんが当院のNICUと成育科の視察のために当院までお越し下さいました。
「なぜ大阪の議員さんが青森まで?」と思われる方がほとんどと思いますし、私自身も今回の視察の打診を頂戴したときには驚きました。実は当科のこのブログをご覧になってご興味を持って下さったそうで、周産期医療にとどまらず 小児在宅医療に関して東奥日報で連載している内容 に関して関心を持たれたとのことでした。
NICUの方のご案内は池田先生にお願いして、現状に関して説明してもらいました。


青森県の周産期死亡率が集約化によって顕著に改善した経緯をご説明し、その上で死亡率が低下したことで、助かったお子さん達に様々な後遺症があり、こうしたお子さんに対して十分な支援が行き届いていない現状に関してお話しさせていただきました。


そして、中でも小児在宅医療の問題に関しては、今や共働きが当たり前の時代に、お子さんに障害があるために働けないことは経済的不利益が大きすぎること、さらには「女性が働く」と言うことに関して根本的に考え直さなければならない時代になっているのではないかと言う点に関して、 東奥日報明鏡蘭への投稿 を通じてお伝えしました。

赤ちゃんを産むお母さんの平均年齢は初産ですら30歳を超えており、第2子以降も全て平均すると、大卒としても約10年ぐらいの社会人としてのスキルがあるはずで、それがお子さんに障害があった時点で、それまでのスキルを水泡に帰してしまわざるを得ないと言うのは、いくら医療費の削減に貢献しているとしても、社会全体としては非常に非効率なことをしているのではないかと思います。


そして、さらには政府は「全ての女性が輝く社会」をスローガンに掲げています。このスローガンの本気度を計る上でも障がい児のお母さんが働けるまでに支援を充実できるか否かが一つの目安になるのではないかと思います。

ただ、それではどのようにしたらこの問題を解決できるか?と言うのが、具体策がまだまだ見えていないのではないか?おそらくはこうした問題を解決するためのヒントを探るために、わざわざ遠路青森までお越し下さったのではないかと感じました。
そして、その答えは先日来ご紹介している横浜市の能見台クリニックの小林先生の取り組み( 6月8日 メディカルデイケアとは?~横浜・ケアハウス輝きの杜 ) に尽きるのではないかとお伝えしました。
重症心身障害児のお子さんは全国各地にいらっしゃいます。いずれにしてもデイケアの充実が必須なのですが、これが例えば大きな都市にある障害児施設だけにデイケア施設が整備されても、大きな街へのアクセスが困難なご家族はその恩恵を受けることができません。その点で、こうしたクリニックで例えば数人でも預かってくれるようになれば、クリニックは全国各地にありますので、これはものすごく大きな変化が起きるのではないか?、そしてそのためにはデイケアに対する報酬が現行制度ではまだまだ不足ですので、まずは経済的支援が不可欠であり、さらにはクリニック内にそうしたスペースを作るにもコストがかかりますのでイニシャルコストに対しても支援があれば、急激に支援の輪を拡大させることができるのではないかと言う現在の考え方をお伝えしました。


議員の皆さんは本当に終始真剣に耳を傾けて下さいました。そして、口々に「はるばる青森まで来た甲斐があった」と仰って下さいました。今回の視察が障がい児を育てていらっしゃるご家族への支援に少しでもつながってくれることを心から願っております。
公明党大阪府議会議員団の皆さん、この度は本当にありがとうございました。心より御礼申し上げます。

(文責 成育科 網塚 貴介)
2016.07.21
今回の学会ではポスター発表も出していました。約10年ぶりとなるGCU(NICUの後方病床あるいは回復期病床)における「一人飲み」に関するアンケート調査結果の報告です。

GCUにおける「一人飲み」に関しては、10年前に全国の新生児医療機関を対象にアンケートを行ったところ、過半数の施設が多忙時に看護師さんが赤ちゃんを抱っこして授乳させることなく、下の写真のようにコットに寝ている赤ちゃんの横に哺乳瓶を立てかけて飲ませると言う行為が行われていることが明らかになりました。

昨年、約10年ぶりに再調査したのが今回の発表です。

結果は、過半数は切ったものの、それでも半数近くの施設で「一人飲み」が行われていることが明らかとなりました。

これをGCUにおける夜勤看護師さんの配置と「一人飲み」との関係を10年前の結果と比べてみると、まず一見して分かるのがこの10年間でGCUにおける看護師配置がかなり改善していることです。かつては看護師さん一人あたりの病床数が平均で9~10床程度でしたが、今回は6床がダントツに多くなっています。これは平成22年の診療報酬改定で新設された「新生児治療回復室入院医療管理料」の影響が大きいのではないかと思われます。この「新生児治療回復室入院医療管理料」では看護師さん一人あたりの病床数は6床までと定められています。ただ、看護体制が改善しているとは言っても、国際的にみるとこの看護師さん一人あたりで6床と言うのもまだ手薄な方に属していることも事実です。

「一人飲み」をしなければならない理由のトップは「後方病床における看護師1人の受け持つ患者数が多すぎるから」で、これは10年前と同じです。この理由を眺めていると、GCUで働いている看護師さん達の「悲鳴」を感じてしまいます。

この「一人飲み」を止めるためにはどうしたらいいか?の問いに対しては「法的制限を設ける」がこれもまた10年前と同様にトップでした。ただ、今回はファミリーセンタードケアの観点から、ご家族が一緒にいるスペースに関しても聴いてみました。この止めるための対策の中に「家族と一緒に過ごすための空間」と言う回答も1/3以上の施設で挙げられていました。

医療法施行規則によると、入院患者さんの病室面積は個室だと6.3㎡、2人以上の部屋だと4.3㎡が必要とされていますが、小児のみの病室の面積はその2/3で良いことになっています。大部屋で4.3㎡の2/3と言うと2.9㎡ですので、畳で言えば1.6畳程度と言うことになります。
昨日のランチョンセミナー の話とも重なりますが、ご家族で過ごすことが前提となっていないこの面積要件が「一人飲み」の原因の一端になっているのではないかと思います。しかし、これも昨日と同様に、入院中であってもこどもは親子で一緒にいる権利が 子どもの権利条約 に定められていますので、この面積要件自体が条約違反と言えるのではないかと言う気もしています。
看護体制は10年前よりかなり改善したとは言え、手薄な施設はまだまだ数多く存在します。
10年前のこのアンケート結果は、かつてあちこちのメディアで取り上げられたり、さらには「 医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟第一回シンポジウム 」で発表させていただいたりと、いろいろありましたが、結果的にこのアンケートで何かが動くと言うことはありませんでした。下の図はこの「医療議連シンポジウム」の際に配付した資料です。

(クリックすると拡大表示されます)
周産期医療が大きく変わることになったのは、これから間もなく起こったいわゆる「たらい回し」事件からNICU不足がクローズアップされ、その整備の一環として上述の「新生児治療回復室入院医療管理料」もまたこの流れの中で認められました。こうした整備のお陰でGCUの看護体制もかなり改善はしましたが、それでもまだ「一人飲み」を止めるまでには至っていないようです。
ただ、以前は単純に看護師の配置不足のみをその原因として考えていましたが、昨日のFamily Integrated Care の観点から考えると、単に看護師の配置のみを議論するのではなく、入院中の赤ちゃんがご家族と一緒にいることを阻んでいるのは、むしろこの面積要件の方なのではないかと言う気もしています。ご家族がいつも一緒にいることのできるスペースが確保され、ケアの主体者が看護師からご家族に変わっていくこともまた、この「一人飲み」を回避するためのもう一つの対策のようにも思います。
「一人飲み」とファミリーセンタードケア
このどう考えてもケアの両極にあるようなものが、実はかなり密接に関係しているのではないかと言うのが今考えているところです。
今回のアンケート結果もまた、しっかりと論文化しなければと思っています。
(文責 成育科 網塚 貴介)
2016.07.20
さて学会最終日のお昼はいよいよランチョンセミナーです。今回のランチョンセミナーの主題は「母児の出会い、愛着形成を産科· 新生児科で考えるFamily Integrated Care」で、「オランダにおけるFamily Integrated Careの実践例と日本における可能性」と題してお話しさせていただくことになりました。お話しする内容は、 5月にオランダの病院を見学 させていただいた内容が主になります。

会場にはでかでかとセミナーが掲示されていました。

会場は今回のメインホールで、かつてないほど広い会場でした。


さあいよいよ始まります。

まず、 昨年の信州フォーラムでも発表させていただいた当院における「直母外出」の取り組みを紹介させていただいた上で、5月の連休に見学させていただいたオランダ・アムステルダムにある OLVG(Onze Lieve Vrouwe Gasthuis)病院 の周産期センターである「 Anna PavilLIon 」の取り組みを中心にお話しさせていただきました。
この施設は、日本で言うところの地域周産期センターに相当する施設で、新生児は在胎32週以上の赤ちゃんを対象に診療されています。病床数は53床とありますが、この施設では産科と新生児科が一体化して診療しているのが特徴で、全て母児同室が前提となっているので、実質上はこの倍程度の診療規模の施設と考えて良さそうです。

Family Integrated Careは本来的な意味合いとしては、ご家族がケアの主体者として治療方針決定にまで参加する概念を含みますが、この施設ではさらに「産科と新生児科がIntegrate(統合)」されているのが特徴です。この方針の下、分娩から入院に至るまでの全過程において母子は一時も離れることなく(母子分離の回避)、安心して親子の絆を育むことができています。

周産期センターは3種類の病室から構成されています。13室の新生児室は、いわゆる個室化されたNICUで、入院中の赤ちゃんとご家族が常に一緒に過ごすことができるようになっています。Small Care Roomと言うのは、妊婦さんや出産後のお母さんが入院するためのお部屋です。そしてこの施設で最も特徴的と言えるのがLarge Care Roomです。このお部屋では入院中のお母さんと入院中の赤ちゃんが一緒に入院することができるようになっています。

このスライドにもあるように、母子のどちらか、あるいは両方が高度な医療を要する状態だったとしても決して母子が離ればなれになることはありません。

それを支えているのが、病棟設計とともに重要なスタッフ教育です。産科・新生児科のスタッフはそれぞれ相互に各9ヶ月間の研修期間を要し、産科スタッフは新生児科の、新生児科のスタッフは産科のケアに関する研修を行うようになっています。

こうした柔軟な対応が可能な背景には、オランダと日本におけるケアに関する考え方の違いがあるように思います。オランダではこうしたケアに対する診療報酬はケア行為自体にひも付けられているのに対して、日本では「病室」と言う縛りの中で診療報酬が設定されている点に大きな違いがあります。つまり日本では産科と新生児科の間に制度上の「壁」ができてしまっており、このことがNICUに入院した赤ちゃんが母子分離をやむなくさせられてしまう元凶となっていると考えています。


制度上から言えば、それぞれの病棟、すなわち産科病棟あるいはMFICUに入院しているお母さんと、NICU・GCUに入院している赤ちゃんは、厳密に言えば、一緒にいるどころか互いに会うことすら制度上の前提にはなく、そこで互いが一緒にいようとすることは、あたかも会うことの許されない二人が「逢い引き」「密会」するかのようでもあります。しかし、本来的には母子にはいかなる時も一緒にいる権利があるはずで、それは「 子どもの権利条約 」にも明記されている点でもあります。

私たち周産期医療に関わるものは、現在はこうした制約の中で診療せざるを得ない状況にはありますが、当院で取り組んできている「直母外出」や、その他にも様々な施設で知恵を出し合い、少しでも赤ちゃんとそのご家族が一緒にいられる環境作り・施設設計のきっかけとなってくれればと良いなと言う思いを今回のランチョンセミナーでは述べさせていただきました。


(文責 成育科 網塚 貴介)
2016.07.19
今回の学会で人工呼吸管理に関して思うところがあったので少しだけ。
学会初日は「呼吸」セッションの座長でしたが、その直前に気になる演題があって質問に立たせていただきました。カナダのトロントに留学されている諫山先生が、最近の非侵襲的な呼吸管理法に関する論文をまとめて、何が一番優れているのか?と言う点に関するご発表で、非常に興味深く拝聴しました。またこのような難解な解析方法なども全くできない一介の臨床医なのですが、ただ素朴な疑問として、海外の論文では研究方法(study design)は当然しっかりされているのですが、例えば超早産児の死亡率だとか脳室内出血や消化管穿孔と言ったメジャーな合併症の発生率が日本の平均値よりはるかに高い研究論文が本当に参考になるのか?と言う点に関して質問させていただきました。日本の成績では良すぎるとしても、それでも現時点で世界的に平均的・標準的な死亡率・合併症発生率を設定した上で、その条件を満たす論文のみを対象とする検討があっても良いのではないかと言う気がしました。

(学会のWeb抄録の一部を貼り合わせており、抄録の全文ではありません)
こちらの写真はちょうどその時の様子を神奈川県立こどもの豊島先生が撮って下さったもので、豊島先生のブログ「 がんばれ!!小さき命たちよ 」からちょうだいしました。

学会2日目には伊藤先生がポスター発表で「超早産児の慢性期呼吸管理におけるサーファクタント(STA)補充療法の有用性について」と題して、最近の当院における超早産児に対する人工呼吸管理のまとめ的な発表をして下さいました。新生児科からの発表なので、もう僕の名前はありません。

ポスターは何枚もあったのですが大事なのはこの1枚です。調査の対象は2013年から2015年までの3年間に当院NICUに入院した在胎28週未満の超早産児です。70数名の入院のうち、早期新生児死亡は1例のみ。調査対象となった72例中、退院時に在宅酸素になったお子さんは1名のみでした。同じ調査を出生体重で行うと約90名の超低出生体重児の入院があって、早期新生児死亡は同じく1例のみ、在宅酸素はゼロ例でした。しかも、ステロイドの全身投与例もおそらくは他施設の一般的な使用率よりもかなり低いはずです。今回の伊藤先生のこのポスターの成績には、人工呼吸管理に詳しい先生方からもかなり驚かれていました。今回の学会で最も誇らしく思えた時でした。

人工呼吸管理の成績は施設間でまだまだかなりの格差があると言われています。ただ、エビデンスと言われると、単独施設の成績で何が言えるわけでもなく、また世界的な趨勢からは早めの抜管で非侵襲的にと言うのが主流となりつつあります。それはそれで良いのかも知れませんが、一定以上の生存率と合併症発生率の低さのレベルでそれが本当に正しいのか?と言う点に関しては個人的に疑問を感じているところでもあります。そうした歯がゆさを感じつつも、まずはこうした成績をしっかりした論文の形にして世界にうったえて行く必要があると思っているところです。
(文責 成育科 網塚 貴介)
2016.07.18
17日の土曜日から学会が始まりました。会場はいくつかの建物に分かれており、右側がメイン会場の国際会議場、左側が懇親会が行われるホテルです。ちょうどこの写真を撮っている背中側に富山城があります。会場からは富山城を一望できました。


最終日のランチョンセミナーの案内も掲示されていますね。

初日の午前中は呼吸セッションの座長を終えて総会に参加です。今回の総会ではこの学会の理事長が交代することになっており、時期理事長にはなんと新生児医療連絡会の事務局長でもある大阪大学の和田和子先生が選出されました。女性の理事長は初でしょうし、おそらく最年少なのではないでしょうか?いよいよ学会の世代交代も本格化してきた印象を持ちました。

午後は大学時代の同級生で産婦人科に進まれたNTT東日本札幌病院の西川鑑先生がシンポジウム「母子感染対策の最前線2016年」で「IgG avidityとPCR法を用いた先天性トキソプラズマ感染症の管理」と言う難しい演題で講演されるので聴講してきました。今回のこのメイン会場はかなり大きな会場で、シンポジウムは2階席の最上段まで満席でした。

続いて学会2日目の様子もご紹介します。学会2日目は朝一番で 新生児医療フォーラム の管理人会がありました。これも毎回恒例の集まりで、今回は現在のホームページの更新のタイミングなどに関して話し合ってきました。現在のホームページはもうかなり前に作ったものなので、そろそろ今の時代にあった形に変えていって欲しいと思っています。

2日目の午後は当院の伊藤先生のポスター発表でした。今回の発表内容は当院の人工呼吸管理の成績も含んでいて、この内容はまた改めてご紹介します。

続いてこの日は「胎児期から退院後まで 医療チームに家族も巻き込むファミリーセンタードケアの取り組み」と言うシンポジウムがありました。今、ファミリーセンタードケアを語らせたら最強とも言える諸先生が並んでいます。


夜はこのところレギュラー参加させていただいている神奈川県立こどもの集まりに今回も混ぜていただきました。今回の学会には池田先生も含めて3人で参加しましたが、このメンバーで学会参加できる日が来るとは、人手不足の時代のことを思い返すと感慨深くもありました。写真はマスクをして白衣を着て会議に出ていたら見分けが付かないんじゃないかと言われている豊島先生と伊藤先生のツーショットです。


最後は「 こどもかぞくまんなか 」の皆さんと豊島先生を囲んでの写真です。この日のシンポジウムに引き続いて翌日に予定されているランチョンセミナーの内容を皆さんに確認していただきながら、ファミリーセンタードケアを中心にあれこれ話に華が咲いた楽しいひとときでした。

(文責 成育科 網塚 貴介)