東奥日報夕刊の連載 「知ってほしい赤ちゃんのこと」 は今週月曜日が37回目でした。今回はFamily centered careを取り上げてみました。
この連載の文字数は大体1500字ぐらいなのですが、一般の方を対象に書くことの難しさを再認識した回ともなりました。学会等であればFamily centered careがどんなものなのか、NICUに入院すると母子分離せざるを得ない、と言う共通認識の元で発表しますが、今回は特に「母子分離」の言葉を使えなかったのが辛いところでした。まずはご覧いただければと思います。
以下、本文です。
赤ちゃんがNICU(新生児集中治療室)に入院すると、どうしても赤ちゃんとお母さんは離ればなれになってしまいます。ご家族、特にお母さんにとっては、通常の産後とは違う環境になるため、イメージしていた姿とのギャップを感じられることもしばしばです。
このことは、私たち医療者がつい「軽症だから」と考えがちな、ちょっとだけ早く小さめに生まれた早産児の赤ちゃんの場合でも例外ではありません。こうしたご家族の不安や葛藤に対して、新生児医療の現場では軽減のために様々な取り組みがされています。今回はそうした取り組みを紹介したいと思います。
かつて新生児医療では赤ちゃんの救命にのみ注力するあまり、赤ちゃんとご家族との関係に無頓着だった時期がありました。しかし、近年はその反省から、ご家族を赤ちゃんのケアの中心にしようという動きが活発で、これを「ファミリーセンタードケア(Family centered care)」と呼びます。
NICUに赤ちゃんが入院すると、ご家族は面会に通い、ある程度大きくなると退院指導を受けて自宅に帰るという流れがあります。確かに面会に来れば赤ちゃんに会うことはできますが、一方で治療中の赤ちゃんに対してご家族ができることは少なく、その場で時を過ごすことは無力感や将来への漠然とした不安、時には「どうしてこうなってしまったのだろう?」というような、ネガティブな気持ちに押し潰されそうになりがちです。
しかし同じ面会でも、ただ赤ちゃんを眺めるのではなく、ご家族でも可能なケアを行うことができればどうでしょうか? 全身状態の不安定な生後早期の急性期では難しくても、栄養を注入できる時期になれば母乳をゆっくり注入したり、もう少しすればおむつ交換もできるようになるかも知れません。
ご家族が行うことのできるケアの範囲が日々広がっていくことや、その過程で次第に赤ちゃんの変化を感じることができれば、ご家族も自分たちが「育っている」ことを実感できるのではないかと思うのです。
こうした取り組みは全国で広がりつつありますが、一方でそれを阻む要因も多々あります。
一つは、前回ご紹介したNICUにおける看護スタッフの人員配置不足です。ご家族にケアに参加してもらうにも、何でもやってみれば良いわけではなく、ケアに対するご家族の理解を深める必要がありますし、またそれぞれのご家族が次に何が可能か、今どの段階なのかも把握しておく必要があり、そのためにはやはり、それなりの人員が必要です。
また、もう一つの大きな要因はNICUの面積です。日本のNICUは非常に狭く、ご家族が赤ちゃんと一緒に過ごすにも、スペースが非常に足りないのが一般的です。この点に関しては、最新のNICUでは病室を個室化したり、ご家族のためのスペースを広く取る施設が増えています。
また、呼吸障害のない、ちょっとだけ早く生まれた早産の赤ちゃんで、もし赤ちゃんとお母さんが一緒に入院患者さんとしてケアできる病棟があれば、そもそも赤ちゃんとお母さんは離れなくて済むはずです。実は、海外の施設では母子をともに入院患者さんとしてケアできる施設がすでに存在します。
日本では、産科病棟とNICUが制度上も区分けされているので、こうした対応を取ることが難しいのが現状です。しかし、ファミリーセンタードケアの観点から、周産期医療体制を大枠から考え直さなければならない時期にさしかかっているのではないかとも考えています。
(文責 成育科 網塚 貴介)