信州フォーラム旅日記~母子の力を引き出すデザイン② のさらに続きです。演者の3番手はパラマウントベッドで企業内デザイナーとしてご活躍されている岩井 文さんです。
今回は入社初仕事だった赤ちゃん用コットが製品として完成されるまでの過程を軸として、製品における「デザイン」の位置づけ・あり方に関してお話ししていただきました。
「新しいコットを開発する」と言うミッションだったので、早速、医療現場に行ってそれまでのコットの問題点や使いにくい点を聞きに行ったのですが、そこで帰ってきた答えは「特に問題ありません」「困っていません」と言うものでした。
大学では「デザインとは、ある問題を解決するために思考や概念の組み立てを行いそれを様々な媒体に応じて表現すること」と教わっては来ましたが、そこで「問題がない」と言われてハタと困ってしまいました。
そこで「デザインは問題解決のみではない」と切り替え、就職の際の初心に戻って女性ならではの気づきを活かし、お母さん達が赤ちゃんをどんなベッドに寝かせたいかを考えたと言います。
そして、時代もまた母児異室から母児同室へ、さらにファミリーセンタードケアの概念が拡がり、ケアの主体者も看護師から母親へのパラダイムシフトが起きつつありました。
ケアの主体者が変わると言うことは、運用や環境が変化し、それにともなって製品も変化していかなければなりません。例えば、このスライドであれば、従来は看護師さんがケアの主体者であれば、コットの高さは少し高めの方が腰が楽だとか、そうした視点が中心でしたが、これが産後間もない入院中のお母さんがケアの主体者となるのであれば、車椅子に座った状態でも膝が邪魔にならない構造が必要になります。この他にも運用や環境の変化にともなって製品も変わっていく必要があり、それはきっとコットに留まらず、様々な医療機器・ケア用品に及ぶのだろうと思います。
つまり企業デザイナーのお仕事としては、表面上の問題解決をするだけではなく、さらに一歩踏み込んで、当事者達が気づいていない潜在ニーズを探りながらアイデアを具現化することがその使命であるとお話しされていました。
「こんな風なNICUをつくりたいのだけれども、どうしたらいいの?」
「ファミリーセンタードケアを実現していきたいのだけれどもどうしたらいいの?」
こうした問いに答えるにはどのようにしたらいいのか?そのためには医療スタッフと企業双方の対話が必要、これは鍋田さんのお話しとも共通する点です。
医療従事者と企業デザイナーさんとの「協奏」こそが、新たな化学反応を起こすために求められるものなのではないかと、本当にそのように感じました。
施設のデザインと製品のデザイン、ともに医療従事者と企業・デザイナーとのコラボレーションによってはじめて「隠れた潜在ニーズ」があぶり出され、かつその答えが導き出されるのでしょう。あとは、どのようにしてこうしたことを「仕組み」として普遍化できるかということが鍵となるのかな?と思います。今回の企画セッションを機に、さらに踏み込んだ仕組み作りが進むことを願っています。
企画セッション終了後の集合写真です。お陰様でとても有意義な企画セッションができたと思います。鍋田さん、岩井さん、パラマウントベッドの山田さん、本当にありがとうございました。
(文責 成育科 網塚 貴介)