青森県立保健大学では毎年、看護系2講、助産コース6講を通常講義として担当していますが、これらとは別枠で、県立保健大学の中村由美子教授のご高配で、新生児・周産期医療と社会との関わりのようなことに関して毎年講義させていただいています。
今回も80分間、色んなお話しをさせていただきました。内容としては
・日本の少子化問題の背景
・少子化なのになぜ低出生体重児が増えてNICUが足りなくなるのか?
・新生児医療における看護体制の問題~特に「一人飲み」問題に関して
・産科病棟の新生児の扱い~母親の付属物としての扱い
・女性の年齢別労働力率におけるM字カーブの問題
等々、まもなく看護師・助産師として社会に出て、周産期医療に関わるであろう彼女たちが近い将来直面するであろう現実に関してお話ししました。
女性人口のカーブを見ると、20年後の母親のほとんどは既に生まれてしまっていますので、前回も述べたように多少合計特殊出生率を上げたところで後戻り不可能なポイントが間近に迫っています。これが少子化対策が「時間との闘い」と言われる所以です。
GCUにおける「一人飲み」は、保育園なら児童福祉法で保育士一人あたりの受け持ち乳児数が定められているのに、病院では児童福祉法が適用されないため、看護師さんが一人でとんでもない人数の赤ちゃんを任せられているために起こる現象です。10年前のアンケートでは全国のNICUの過半数で行われていました。
女性の労働力率のM字カーブは、正規雇用・非正規雇用で分けてみると最初は正規雇用でも出産・育児の年代になると比率が下降し、逆に非正規雇用が増加する傾向があります。以前と比べてM字カーブの凹みは浅くなっていますが、これは非正規雇用の増加によって支えられています。正規雇用でいったん辞めるとなかなか正規雇用には戻れない「片道切符」であることがうかがえます。
以前、このブログでも 「ルポ 産ませない社会(小林美希著、河出書房新社)」 をご紹介しましたが、この本に書かれていることが働く女性を取り巻く社会的環境を物語っています。
これらは個別には一見、別々のことのように見えますが、実は日本が赤ちゃんとお母さんを大切にしないと言う点で共通しています。「一人飲み」や産科病棟で母親の付属物扱いされるなど、制度上、日本は「赤ちゃんの権利」と言う観点からは権利意識に乏しい国だと言わざるを得ません。こうした社会のひずみが集中する分野で働くと言うこと、そして将来、家庭人として職業を持つ母として生きていく上での困難さがあると言うことを学生の今のうちから是非知っておいて欲しいと言う思いでお話しさせていただきました。