今週の土曜日は青森市内で第44回青森県周生期医療研究会が行われました。詳細は後述しますが、今回の抄録集では「総合周産期母子医療センター開設から10年を経過して」と題して巻頭言を書かせていただきました。
以下、巻頭言の全文です。
総合周産期母子医療センター開設から10年を経過して
青森県立中央病院 新生児科 網塚 貴介
平成16年11月に当院に総合周産期母子医療センターが開設され、今年の11月で開設からちょうど丸10年を迎えました。
センター開設を機に県内各地から県病へより重症な例が搬送されるようになり、中でも超低出生体重児の集約化によって県内全体の死亡例数を減じることを目指してきました。一方、この県病への集約化は救命率の向上に伴ってNICUの病床不足を招き、状態が安定した児を地域周産期センターへ搬送し、センターの受け入れ機能維持を県全体で支えていただく施設間連携が徐々に形成されました。現在では極低出生体重児の退院先は、当院からの自宅退院は全体の約4割にとどまり、残り6割は八戸市民病院・国立病院機構弘前病院・むつ総合病院へ搬送されています。こうした県全体の取り組みの成果として、昭和後半から常にワースト5位に低迷した周産期死亡率の5年平均値は直近の平成21~25年では上から16位と、遂に上位群の仲間入りを果たすことができました。乳児・新生児死亡率は、在胎22~23週の看取り例があるのでなかなか改善しきれませんが、まずは一定の成果はあったと思います。これまでご尽力いただいた諸先生にはこの場をお借りして心より御礼申し上げます。
救命率が向上し各死亡率が改善する一方、超低出生体重児に発生する消化管穿孔や脳室内出血などの重篤な合併症の発生率は決して満足行くものではありませんでした。こうした合併症を減じるため、平成23年以降は県病医師の神奈川県立こども医療センターへの国内留学・研修により治療方針を根本から見直しました。その結果、治療成績は大幅に改善し、今では全国の出生体重1500g未満例の診療成績を比較した新生児臨床研究ネットワークの補正死亡率(患者さんの重症度で施設間補正した死亡率)で2011年にはついに全国77施設中トップの成績となるに至りました。
この10年間、本当に色んなことがありました。かつての医師派遣元であった札幌医科大学小児科からの医師引き上げによる医師不足の時期は本当にいつ潰れてもおかしくありませんでした。現在の県病NICUがあるのは多くの出会いの中での「奇跡」としか言いようがありません。
本県の新生児医療は県病が県外から医師派遣を受けていたため、結果として診療によって得られたはずの経験知を県内に還元できず霧散させてしまいました。他県を見渡しても、総合周産期母子医療センターへの医師派遣を県外大学に依存する地域の多くは現在も人材育成で苦境に立たされ続けています。地域医療の発展には、患者さんと医師の動きを一致させ中核施設での研修を県内の医療に還元すること、そして自らの弱みを客観的に認識し常に進化し続ける姿勢の両者が不可欠であると、この10年で学びました。この反省を活かした次世代の育成により、次の10年へのバトンを受け渡すことができればと思います。
本県の周産期医療水準の更なる向上のため、本研究会のますますの発展を期待します。