東奥日報夕刊の連載「知ってほしい赤ちゃんのこと」は先週月曜日が15回目でした。今回はこれまで続けてきた少子化問題の総まとめ的な内容になっています。少子化問題に関してはこれからも触れて行こうと考えていますが、次回からはテーマをちょっと変えていこうかと考えているところです。
以下、15回目の本文です。
少子化問題に関して、例えば「日本は国土が狭いから人口は少ない方が良いんじゃないか?」などの意見を耳にします。今回はそれら少子化に関わる一般的な誤解を解きたいと思います。
少子化の問題は、単に人口が減るという簡単な話ではありません。最大の問題は「年齢別人口構成の急激な変化」です。国立保障・人口問題研究所による、2010年と2040年の推計値の比較を見てみましょう。総人口では、約1億2800万人から約1億700万人と、16%程度の減少が予想されています。
ちなみに40年は、団塊ジュニア世代が70歳前後と高齢者の仲間入りをする頃です。老年人口(65歳以上)だけは3割ほど増えていますが、生産年齢人口(15~64歳)を見ると、逆に8173万人いたのが5787万人と、3割近く減少すると予想されています。また、老年人口を支える生産年齢人口の割合では、老年1人に対し、2・8人だったのが、約半分の1・5人まで減ると推計されています。
この急激な変化がどのような問題を引き起こすのか? 現在の若年世代や、これから生まれてくる世代の立場で考えると分かりやすいのではないでしょうか。
最近は「年金はもらえるのか?」と受給者側の心配の声ばかりが聞こえてきますが、若年世代やその子どもたちから見ると「自分たちがもらう時、若者の負担はどれくらいに増えているのか?」という見方ができます。国が背負っている借金も膨大です。これから生まれる若年世代に仲間を増やさないと、負担は増すばかり─。自分たちの今よりも、子や孫の心配をもっとしても良いのではないか。そんな気がしています。
一方、こうした背景から行われる少子化対策自体が、戦後の「産めよ増やせよ」を連想させ、忌避感を抱く方も多いようです。女性に対するプレッシャーを問題視する意見も耳にします。
確かに少子化が問題だからと言って「子どもを産む」ことの押しつけは避けなければなりません。ただその前に、若い世代の結婚や子育ての希望が叶えられているか、という点を考えなければなりません。同研究所が年に行った出生動向基本調査によると、夫婦の「希望子ども数」は平均2・42人。また独身女性の結婚希望率が89.4%、さらに「(結婚した場合の)希望子ども数」が2・12人とされています。
これらの数値などから「希望出生率」を算出すると1・8となり、現在1・4程度で推移している合計特殊出生率を大幅に上回ります。少子化対策に成功したフランスなどの欧州先進諸国の合計特殊出生率も1・8程度です。人口を安定させるために必要な合計特殊出生率は2・07なので、そこには足りませんが、まずは子育て世代の希望子ども数をかなえることが先決と言えるでしょう。
現在の日本で「結婚し子どもを産み育てる」ことの困難さが増しています。医療現場という限られた場面ながら、近年のお母さんたちを取り巻く環境を見ていると「社会としての優しさが欠けているのではないか」と常々感じます。
かなり昔になりますが、高倉健主演の映画『野生の証明(1978年)』で「タフでなければ生きていけない。優しく無ければ生きている資格がない」と言うキャッチコピーが頻繁に流れていました。今の社会をこの少子化問題の観点から眺めていると、まさに「社会自体が優しくなければ生きていく資格がない」のかもしれません。