来月10月3日(土)~4日(日)に仙台市で東北・北海道小児科医会連合会総会が開催されます。この2日目には朝から「小児在宅医療考える~現状と課題」と題したシンポジウムが予定されており、そこで発表の予定となっています。
今回のシンポジウムでは小児在宅医療の中でも特に「母親の就労の観点から」の問題点に焦点を絞って発表させていただきたいと思っています。
「小児在宅医療」と「母親の就労」と言うと、これはほぼ真逆の概念と言っても良いぐらいはないかと思います。しかし、これまでの 東奥日報の連載 でも何度も述べてきましたが、いわゆる「女性の社会進出」はバブル崩壊から就職氷河期以降の雇用の不安定化を背景として、その実態としては「進出」と言うよりも「働かざるを得ない」と言う側面が大きいのではないかと思います。
今年3月5日の東奥日報に 「医療措置必要な我が子 どう育てていけば・・・」「受け入れ施設なく 母苦悩」 と題した記事が掲載されました。今回の発表はこの記事の延長上にある問題に関して述べてみたいと思っています。
以下、抄録の最後の部分だけ抜粋してご紹介させていただきます。
現在の小児在宅医療を支える基盤は非常に脆弱であり、家族に大きな負担を強いることでて辛うじて成り立っている。国はNICU病床不足や医療費抑制のための対策として在宅医療を推進してきた。日中一時支援事業等の諸制度が整備されてはいるが、母親の就労と言う観点から見ると理想にはほど遠い状況がある。
在宅医療の推進は医療費削減と言う点では一定の効果があるのだろうが、見方を変えると、それまで全く別のスキルを築き上げ社会人として働いていた(主に)女性を、生まれてきた子どもに障害があると言う理由で、それまで行ったこともない医療的行為を、しかも親子が1:1と言う非効率な方法で家庭に縛り付け、それまでに培ってきた社会人としてのスキルを結果的に放棄させてしまっている。これでは医療費が削減されても、社会全体としては極めて非効率なことをしているとは言えないだろうか?
本県の新生児医療はこれまで極めて高かった乳児死亡率の改善を目指して政策医療の一環として整備されてきた。しかし、在宅医療に限らず何らかの障がいを持って退院した児とそのご家族に対してのサポートは極めて貧弱である。政策医療として行ってきた医療は結果的に「助けっ放し」になってしまっている。
生まれてきた子どもに障がいがあった場合、このように預け先探しもままならない現状は、障がい児の親となることが結果として経済的不利益を招いている。在宅医療に関わる枠組みを「母親の就労」「障がい児の家庭の経済環境」と言う視点で今一度見直す必要があるのではないかと考える。