東奥日報夕刊の連載 「知ってほしい赤ちゃんのこと」 は今週月曜日が27回目でした。今回は「真の母乳育児支援とは?」と言うタイトルで、お母さんへの精神的支援の必要性に関して述べてみました。
以下、本文です。
以前、正しい情報と支援があれば、ほとんどのお母さんは母乳で赤ちゃんを育てられると言われていることを述べました。この「ほとんど」とは、実際にはどの程度の割合なのでしょうか?
母乳育児に力を入れていて、WHO・ユニセフから「赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」に認定されている施設は、本県内では弘前市の健生病院と国立病院機構弘前病院の2施設あります。しかし、健康な赤ちゃんがお母さんのおっぱいだけで退院できる割合は、BFH認定施設でも良くてせいぜい9割程度、一般的に8割を超えていればかなり高率と言えます。
ちなみに、県病で出生体重1000g未満で生まれる超低出生体重児の救命率は現在95%を超えます。それでも「ほとんど助かりますよ」とはとても言えません。一方の母乳率は、8割程度で合格レベルなのですから、「ほとんどのお母さんが母乳育児できる」というのは言いすぎのような気もします。
確かに母乳育児の確立にはお母さんたちを励まし、モチベーションを高める必要があります。しかし、イメージしていた母乳育児とは裏腹の結果になってしまえば、お母さんたちが喪失感・敗北感を感じたとしても不思議ではありません。
これはちょうど受験生が合格をイメージして頑張ったのに不合格になってしまった時と似ています。ここで重要なのは、仮に当初のイメージとは異なった結果となったとしても、「やれるだけのことはやった」と思えるなど、気持ちが前に向くような支援なのではないかと思うのです。つまり、母乳育児支援とは単に母乳率が高くなることを目指すのではなく、仮にうまく行かなかったとしても、しっかりと精神的なサポートやフォローも含んでのことでなければならないはずです。
母乳育児と言うと、「母乳教」とか「狂信的」といった言葉で揶揄されることがありますが、それにはそう言われるだけの、何らかの至らなさがあるのではないかと思います。
「頑張ればみんなうまく行きますよ」と言って、うまく行かなかった時のサポートがなければ、それは母乳育児を支援している側も「母乳が大事」とは言いながら、実は「できなかったらそれはそれで仕方ない」という気持ちが働いているのではないか? そんな気さえしてしまいます。
支援もなく、生後間もなくから人工乳を飲ませれば母乳率など半分にも満たないことでしょう。母乳育児がうまく行かなかった時、その最も大きな原因はお母さん自身ではありません。分娩施設の支援の影響がはるかに大きいのは事実で、支援する側に原因があると言っても過言ではありません。
そして、お母さんがご自身を責めてしまう気持ちになったのだとしたら、それもまた施設としての精神的支援が不十分であったことが原因と言って良いでしょう。決してお母さんご自身を責めることになってはならないと思うのです。
「人工栄養だって立派な育児なのだ」と、その後の育児を前向きにとらえられることの方が、母乳育児の確立よりもはるかに重要なのではないでしょうか?
母乳育児支援で何が一番大切なのか? それは単に母乳率を上げることではなく、母乳で赤ちゃんを育てたいと思っているお母さんが最大限の支援を受けられ、最終的にどんな結果になろうと自信を持って赤ちゃんを育て続けることができるような支援なのではないかと思います。
では、このような支援はどうすれば実現できるのでしょうか? それはまた次回お話ししたいと思います。