今回の学会ではポスター発表も出していました。約10年ぶりとなるGCU(NICUの後方病床あるいは回復期病床)における「一人飲み」に関するアンケート調査結果の報告です。
GCUにおける「一人飲み」に関しては、10年前に全国の新生児医療機関を対象にアンケートを行ったところ、過半数の施設が多忙時に看護師さんが赤ちゃんを抱っこして授乳させることなく、下の写真のようにコットに寝ている赤ちゃんの横に哺乳瓶を立てかけて飲ませると言う行為が行われていることが明らかになりました。
昨年、約10年ぶりに再調査したのが今回の発表です。
結果は、過半数は切ったものの、それでも半数近くの施設で「一人飲み」が行われていることが明らかとなりました。
これをGCUにおける夜勤看護師さんの配置と「一人飲み」との関係を10年前の結果と比べてみると、まず一見して分かるのがこの10年間でGCUにおける看護師配置がかなり改善していることです。かつては看護師さん一人あたりの病床数が平均で9~10床程度でしたが、今回は6床がダントツに多くなっています。これは平成22年の診療報酬改定で新設された「新生児治療回復室入院医療管理料」の影響が大きいのではないかと思われます。この「新生児治療回復室入院医療管理料」では看護師さん一人あたりの病床数は6床までと定められています。ただ、看護体制が改善しているとは言っても、国際的にみるとこの看護師さん一人あたりで6床と言うのもまだ手薄な方に属していることも事実です。
「一人飲み」をしなければならない理由のトップは「後方病床における看護師1人の受け持つ患者数が多すぎるから」で、これは10年前と同じです。この理由を眺めていると、GCUで働いている看護師さん達の「悲鳴」を感じてしまいます。
この「一人飲み」を止めるためにはどうしたらいいか?の問いに対しては「法的制限を設ける」がこれもまた10年前と同様にトップでした。ただ、今回はファミリーセンタードケアの観点から、ご家族が一緒にいるスペースに関しても聴いてみました。この止めるための対策の中に「家族と一緒に過ごすための空間」と言う回答も1/3以上の施設で挙げられていました。
医療法施行規則によると、入院患者さんの病室面積は個室だと6.3㎡、2人以上の部屋だと4.3㎡が必要とされていますが、小児のみの病室の面積はその2/3で良いことになっています。大部屋で4.3㎡の2/3と言うと2.9㎡ですので、畳で言えば1.6畳程度と言うことになります。
昨日のランチョンセミナー の話とも重なりますが、ご家族で過ごすことが前提となっていないこの面積要件が「一人飲み」の原因の一端になっているのではないかと思います。しかし、これも昨日と同様に、入院中であってもこどもは親子で一緒にいる権利が 子どもの権利条約 に定められていますので、この面積要件自体が条約違反と言えるのではないかと言う気もしています。
看護体制は10年前よりかなり改善したとは言え、手薄な施設はまだまだ数多く存在します。
10年前のこのアンケート結果は、かつてあちこちのメディアで取り上げられたり、さらには「 医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟第一回シンポジウム 」で発表させていただいたりと、いろいろありましたが、結果的にこのアンケートで何かが動くと言うことはありませんでした。下の図はこの「医療議連シンポジウム」の際に配付した資料です。
周産期医療が大きく変わることになったのは、これから間もなく起こったいわゆる「たらい回し」事件からNICU不足がクローズアップされ、その整備の一環として上述の「新生児治療回復室入院医療管理料」もまたこの流れの中で認められました。こうした整備のお陰でGCUの看護体制もかなり改善はしましたが、それでもまだ「一人飲み」を止めるまでには至っていないようです。
ただ、以前は単純に看護師の配置不足のみをその原因として考えていましたが、昨日のFamily Integrated Care の観点から考えると、単に看護師の配置のみを議論するのではなく、入院中の赤ちゃんがご家族と一緒にいることを阻んでいるのは、むしろこの面積要件の方なのではないかと言う気もしています。ご家族がいつも一緒にいることのできるスペースが確保され、ケアの主体者が看護師からご家族に変わっていくこともまた、この「一人飲み」を回避するためのもう一つの対策のようにも思います。
「一人飲み」とファミリーセンタードケア
このどう考えてもケアの両極にあるようなものが、実はかなり密接に関係しているのではないかと言うのが今考えているところです。
今回のアンケート結果もまた、しっかりと論文化しなければと思っています。
(文責 成育科 網塚 貴介)