今月10日には例年青森市内でこの時期に開催される第46回青森県周生期医療研究会がありました。
今回は特別講演として、東京成徳大学子ども学部教授の益田早苗先生をお招きして「予期せぬ妊娠・出産への支援ー新生児養子縁組への取り組み」と題してご講演いただきました。
実はこの前日である12月9日は「養子縁組あっせん法」が衆院本会議で成立したばかりというかなりタイムリーな話題でした。特別養子縁組とは様々な事情で実の親が育てることができないお子さんが家庭で養育できるようにするための制度で、養子は戸籍上養親の子となり、実の親との親子関係がなくなる点で普通養子縁組と異なります。年齢も原則として6歳未満と定められています。
これまで特別養子縁組には児童相談所もしくは民間の支援機関がその任にあたっていましたが、特別養子縁組がなかなか進まなかったり、支援機関の質などが問題視されてきました。予期せぬ妊娠・出産によって生まれた赤ちゃんの中には虐待を受けたり、乳児院に収容されてもその後の人生において貧困が連鎖するなどの問題があり、今回の法整備は各方面から期待されていたそうです。
ただ、個人的には以前、このブログでもご紹介しましたが、今から約2年半前のNHKスペシャルで女性の貧困を取り上げた特集があり、それに対して 子どもを大切にしない国に未来はあるか?「NHK 女性たちの貧困」から思うこと という記事を書いたことがあります。
以下は、その記事をそのまま引用します。
子どもを大切にしない国に未来はあるか?「NHK 女性たちの貧困」から思うこと (2014.06.13)
4月27日(日)のNHKスペシャル「 調査報告 女性たちの貧困~”新たな連鎖”の衝撃~ 」が放送されました。この放送をご覧になって衝撃を受けられた方も多いと思います。少し前の番組ですが、この番組を見ていてどうしても納得の行かない点があったので、今更ながら取り上げてみたいと思います。
番組では働く女性の約6割が非正規雇用で、非正規で働く15歳から34歳までの若年女性の8割以上が年収200万円未満で全国に289万人いると紹介されていました。これはこれで問題ですが、今回気になったのはその後の部分です。
この貧困の中、貧しさから我が子を手放さなければならない女性がいると言うのです。
この図では「こどもを手放す理由」の半数以上が経済的理由となっています。性犯罪など、母親がわが子を受け入れられない場合は別として、経済的理由と言うことは母親自身にこどもを育てる希望があるのに叶わないと言うことを意味します。実際、番組中のインタビューでも自分のような人生ではかわいそうだから、新たな両親に託したいと言う思いが語れていました。
「経済的理由から女性がこどもを手放す」と言うのはあくまで女性の側から見た表現で、こどもの立場から見れば「親に経済力がないとこどもは自分の親に育ててもらう権利がない」と言うことを意味します。しかし、直感的にもこの現実はどこかおかしくないでしょうか?
日本は1994年に 子どもの権利条約 を批准していますが、子どもの権利条約の第7条の1に
「児童は、出生の後直ちに登録される。児童は、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、また、できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。」
とあります。つまり、こどもの立場からみれば、彼らにはこの世に生まれ落ちたその時から「その父母によって養育される権利」があるのです。
ここで誤解のないように付け加えておきますが、今回の番組で紹介されていた特別養子縁組を仲介するNPO法人の方の活動に関して、個人的にはこうした活動はとても尊く、現実に「こどもの権利」が守られていない現状がある以上、「こどもの権利」を守るため、この日本社会にはなくてはならない存在なのではないかと考えています。
番組では女性の貧困問題に関し、国の成長戦略と結びつけて制度間の連携や制度の刷新の必要性が語られていました。しかし、そんな損得でばかり語られるべきものなのでしょうか?
番組では今回の問題への対処を日本社会の持続可能性の分岐点としていましたが、 国の少子化対策 も含め、どうも経済や社会の都合ばかりが優先され、肝心のこどもの立場がすっぽりと抜け落ちているのではないかと言う点を危惧しています。
当科の医師の研修でお世話になっている神奈川県立こども医療センター新生児科の豊島勝昭先生は「 こどもを大切にしない町や国に未来はこない 」が口ぐせですが、今回の番組を観ているとまさにその通りと思います。少子化、少子化といくら騒いでみても、大人達の都合ばかりを優先している社会に明るい未来があるとはとても思えません。
「こどもを大切にしない町や国に未来はこない」
この国の未来考える全ての人に、この言葉をいつも心に唱えて欲しいと思います。
引用終わり
益田先生のご講演の後
「2年半前のNHKスペシャルで女性の貧困が取り上げられ、そこでは子どもを手放す理由の半数が経済的理由とあったが、この法案の成立によって、自分で育てたくても経済的理由でそれが叶わない女性から子どもを取り上げることにはつながらないのか?」
「先天的な疾患や早産児などで出生した児たちが差別をうけることはないのか?」
この2点に関してご質問させていただきました。
これらの点に関しては、今回、この法案は成立したけれども、2017年4月の法律施行に向けたガイドライン作成がこれからア行われるので、そうした中で様々な議論がなされることになるでしょうとのことでした。
個人的にこの法案に反対なわけではありませんが、運用を一つ間違えると取り返しのつかない制度であることを十分自覚した上でしっかりした制度設計をしていって欲しいと願っています。益田先生、大変勉強になりました。ご講演に心より感謝申し上げます。
(文責 成育科 網塚 貴介)