EtCO2アダプタの発表に続いてこの日は「新生児医療におけるデザイン 製品〜環境〜運用」と題したセッションが企画され、モデレーターを務めさせていただきました。このセッションは昨年の富山で開催された日本周産期新生児学会の教育セミナーで 「母児の出会い、愛着形成を産科· 新生児科で考えるFamily Integrated Care~オランダにおけるFamily Integrated Careの実践例と日本における可能性」 としてお話しした内容の先にある企画です。近年はファミリーセンタードケア関連の発表も数多くみるようになり、それぞれの施設で様々な取り組みが紹介されています。しかし、いざ新たな施設を作ろうとか、NICUを改修しようというような話になると、あまり相談する人もいなくて、それぞれの施設で自分たちで考えるしか方法がないのが実情なのではないかと思います。当院もこれまで3度の増床・改修工事を行いましたが、あとになって後悔する点も多々あります。こうした各施設の経験や失敗はそれぞれの施設の中で結局消えて行ってしまっているのが実情でしょうから、それらをどうにかして経験を蓄積することはできないだろうか?さらには製品開発に関しても企業の方たちと協力しあうことで新たなアイデア、デザインを生み出す素地を作り出すことができないだろうか?というのがこのセッションの狙いです。
まずは当院の直母外出と昨年オランダで見学させていただいたOLVG病院の取り組みをそれぞれざっくりとご紹介しました。OLVGの詳細は以前ご紹介していますので、そちらをご参照ください。
Family Integrated Care~日本周産期・新生児学会in富山 その4
オランダのOLVG病院の理念は「お母さんと赤ちゃんは常に一緒で離れることはない」です。
その理念を具現化させるためには産科と新生児科そ双方が理念を共有するところからはじまっています。
それでは日本では同じような施設を作ることはできないのでしょうか?
日本では産科と新生児科の間には厳格な独立性が求められていて、それが制度として母子が一緒にいることを阻んでいることを、これは昨年の教育セミナーでもご紹介しました。
日本でもこうした施設を作るには、その前提として看護師さんの配置が問題になりますが、全国的にはGCUの配置は全国的にも1対6が標準になってきているようです。
その前提で考えてみると、
例えば大部屋で母子の混合病棟を作ることができれば、あながち不可能でもなさそうです。さらにこれを個室化できれば少しOLVGに似てきます。
一方、施設の設計というのは、これはなかなか難しいもので、何回改修工事をやっても「こんなはずじゃなかった」はあちこちにあります。この部屋はGCUの隣に作った母子室ですが、GCUの明かりが窓から入らないようにと、左側の窓は小さく上の方だけ付けましたが、出来上がってみるとGCU側には大きなガラス窓が!こんなことが度々起こってしまいます。
かれこれ15年以上前に最初にNICUの設計をしましたが、今にして思えば見えていたのはこんな範囲だったような気がします。そこに臨床現場の意図をくみ取って、設計会社との間を「通訳」してくれて、さらにその意図を組んだデザインまで提供してくれる存在があったら、どんなによかっただろうと思うのです。これは、今まさに全国津々浦々で進行中の各施設でも同じことだと思います。医療者は所詮は建築では素人です。かと言って、建築する側もまた医療現場のことを理解するのはとても無理でしょう。理想の施設づくりには、その間を埋めるような存在と、そして全国の各施設の「失敗」を蓄積するためのなんらかの仕組みが必要だと思うのです。このセッションの意図もそこにあります。
「家は3回建てないと満足した家が建たない」と言われますが、NICUの設計など長い医師人生の中であって1度でしょう。そのワンチャンスを活かすには、やはり仕組みが必要なのだと思います。
そのための方法を具体的になにかアイデアとして持ち合わせているわけではありません。しかし、今回の企画セッションを機として、今後、こうしたことにも関心が集まることを期待したいと思います。
こうしたことを前提として、この後にデザイナーの鍋田さんと、企業デザイナーの岩井さんのご発表が続きますので、その2以降でご紹介します。
(文責 成育科 網塚 貴介)