毎年この時期には弘前大学医学部で医学生を対象に新生児の講義を毎年2コマ担当しています。今年も先日、弘前大学へ講義に行ってきました。例年は車で行くのですが、今回はJRで向かってみました。


講義の対象は3年生で、まだ基礎医学も平行して習っている時期なのではないかと思います。新生児の講義とは言っても、何しろ新生児の全範囲となると内科小児科と同じく呼吸循環にとどまらず血液内分泌代謝等々多岐に渡ります。これを2コマで講義するのはとても無理なので、まずは出生前後の呼吸循環の外界への適応過程を中心にお話ししています。医学生の皆さんは将来的にはいろんな診療科に進まれますので、医学部の授業では特にどの診療科に進んでも必要となる知識も重視しています。その一つは新生児蘇生法であり、もう一つは母乳育児に関してです。中でも母乳と薬剤に関しては、母乳育児中のお母さんには簡単に「薬を飲んでいる間は母乳をやめるように」と簡単に言われてしまいがちですので、特にこの点に関して授業の最後に強調しています。

中でも最も強調したいのがこのスライドです。母乳育児中のお母さんに対して処方をする際には、「薬剤を投与したから母乳を中止する」のではなく、「どうしたら母乳を続けながら治療ができるか?」を考える責任が全ての医師にあることを強調しています。そして、少なくとも将来進んだ分野で頻繁に処方する薬剤に関してぐらいはしっかりした知識を持って欲しいと思っています。ここのところでは、医学生の皆さんもかなり関心を持ってくれたようで、おのおのメモを取っているようでした。

また母乳と薬剤に関しては、例えば国立成育医療研究センターのホームページでも代表的な薬剤に関しての母乳育児の是非が示されています。今の時代ですからこうした情報にも簡単にアクセスできてしまいます。せめてこのぐらいは知っておいて欲しいところです。

ついでに講義後にスマホでもすぐにこのページが見られるようにQRコードも貼っておきました。

これから弘前大学医学部を卒業される医師は全員、母乳育児中のお母さんへの薬剤投与に関して正しい知識で離床現場に臨んでほしいと願っています。
(文責 成育科 網塚 貴介)

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少し前になりますが、4月6日(金)にNHKでTVシンポジウム「重い病気を持つ子の暮らしと学びをどう支えるか」が放送されました。


シンポジストは野田聖子総務大臣、国立成育医療研究センター病院長賀藤均先生、女優のサヘル・ローズさんで、司会は国立病院内施設「もみじの家」のハウスマネージャーで元NHKの内多勝康さんが務められました。


まず医療的ケア児とは?というところから始まり、この10年ほどで約1.8倍に増加しており、全国で約1万7千人もいると紹介されました。



野田さんは医療的ケア児のご家族の視点から医療的ケア児を取り巻く現状の問題点に関してお話しされました。野田さんのお子さんもNICUの入院期間がかなり長かったそうですが、本来であればこどもがこどもの時期に得るはずの経験をすることができなければ発達を期待することが難しくなることからNICUからの退院を決断され、退院してからの成長を見ていると「こどもは必ず発達する」ことを実感されたそうです。ただ、そうは言っても在宅医療は想像を絶するほどの大変さで、こどもは可愛いし愛しているけれども、だけど睡眠不足と言う「敵」は、その良質な魂すら汚してしまうと仰っていたのが印象的でした。

こうしたご家族が少しでも休めるようにと開設されたのが、司会の内多さんがハウスマネージャーをされている医療型短期入所施設「もみじの家」です。このような施設が青森のような地方にもできたらなと思いながら見ていましたが、この番組を見ていた全国の多くの方達が同じように感じられたことでしょう。当事者のご家族であればなおさらのことと思います。


次に話題は就学後の教育現場における問題点に移ります。医療的ケア児で、特に人工呼吸器をつけているお子さんの場合、東京都ではお子さんが学校にいる間、ご家族の付き添いを求めています。これはほとんどの自治体でも同じような現状があります。日本では義務教育なので就学年齢に達すると自動的に学校に就学するのが普通なのですが、その「普通」が医療的ケア児では叶わないことを野田さんは訴えられていました。

野田さんは、日本では昔から「子宝」とは言うけれども、社会としてみると全く実体が伴わず、実際には「こどもは家族のもの」であり、それは障害があってもそれは家族の責任になってしまうこと、さらには「女性の活躍」を謳う傍らで、医療的ケア児の親になったら「アウト!」になってしまう現状に対して、これは医療的ケア児だけの問題ではなく子育て全般にいえる問題なのではないかとも述べられていました。
かれこれ2年半ほど前に仙台市で開催された小児在宅医療シンポジウムで
母親の就労の観点から
と題して発表した際、その抄録に
現在の小児在宅医療を支える基盤は非常に脆弱であり、家族に大きな負担を強いることでて辛うじて成り立っている。国はNICU病床不足や医療費抑制のための対策として在宅医療を推進してきた。日中一時支援事業等の諸制度が整備されてはいるが、母親の就労と言う観点から見ると理想にはほど遠い状況がある。
在宅医療の推進は医療費削減と言う点では一定の効果があるのだろうが、見方を変えると、それまで全く別のスキルを築き上げ社会人として働いていた(主に)女性を、生まれてきた子どもに障害があると言う理由で、それまで行ったこともない医療的行為を、しかも親子が1:1と言う非効率な方法で家庭に縛り付け、それまでに培ってきた社会人としてのスキルを結果的に放棄させてしまっている。これでは医療費が削減されても、社会全体としては極めて非効率なことをしているとは言えないだろうか?
本県の新生児医療はこれまで極めて高かった乳児死亡率の改善を目指して政策医療の一環として整備されてきた。しかし、在宅医療に限らず何らかの障がいを持って退院した児とそのご家族に対してのサポートは極めて貧弱である。政策医療として行ってきた医療は結果的に「助けっ放し」になってしまっている。
生まれてきた子どもに障がいがあった場合、このように預け先探しもままならない現状は、障がい児の親となることが結果として経済的不利益を招いている。在宅医療に関わる枠組みを「母親の就労」「障がい児の家庭の経済環境」と言う視点で今一度見直す必要があるのではないかと考える。
と述べましたが、それをイラスト化したのが下の図です。



政府のスローガンとして「全ての女性が輝く社会作り」を高々と掲げるのであればなおさらのこと、小児在宅医療に関わる母親達でも働くことのできる環境整備が必要なのではないかと思います。
(文責 成育科 網塚 貴介)

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今年7月7日(土)に盛岡市で開催予定のいわて母乳の会の第15回わくわくおっぱいのつどいで講演させていただくことになりました。同じ日に宮城県立こども病院の室月先生も「『コウノドリ』にまつわるいくつかのこと」と題してご講演されます。今から楽しみにしています。

(画像をクリックすると第15回わくわくおっぱいのつどいのページにリンクします)

(画像をクリックするとパンフレットのPDFファイルが開きます)
(文責 成育科 網塚 貴介)

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このところブログ更新が滞っていました。今頃ですがGW中の花見の話題をアップしておきます。今年は連休の前半に芦野公園と弘前公園に行ってきました。まずは芦野公園から。

今年の桜はちょっとフライイング気味でGW前に満開を迎えてしまいました。そこで例年、弘前公園よりも開花が少し遅めの芦野公園へ行ってみました。GW前半でもまだまだ桜は見頃でした。


芦野公園内にある津軽鉄道芦野公園駅では園内の中を鉄道が横断する全国でも珍しい光景を見ることができます。また線路を覆うような桜のトンネルとその下をくぐる津軽鉄道との景観は有名で、駅のホームは多くの観光客で埋め尽くされていました。

さて、その日の夜には弘前公園にも行ってみました。弘前公園は満開を過ぎたとは言っても日中はかなりの人手ですので、むしろ夜桜の時間帯の方がゆっくり花見ができます。お堀が散った桜の花びらで埋め尽くされる「花筏」がとてもきれいでした。

久しぶりの弘前公園の夜桜はやはりきれいですね。



(文責 成育科 網塚 貴介)

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学会2日目のシンポジウム「小児科医に明日はあるのか」でも興味深い話題が数多く取り上げられていました。
中でも富山大学小児科の田中先生の女性医師たちが自分たちで考えた働き方ルールに関してのご発表が印象的でした。富山大学小児科では少し前に医局内の女性医師の「空前絶後の(抄録まま)」ベビーブームを体験され、田中先生もその中のお一人だったそうです。これを機に妊娠出産後の働き方に関して当事者の女性医師たちが意見を出し合って自身のキャリアアップも考慮した働き方のルールを作成し、その実践をご紹介されました。

富山大学と言えば、2年半ほど前に同じ富山大学産婦人科の米田哲先生が同じくワークライフバランスに関してご講演されていたことを思い出しました。
2015.10.12 富山大学産婦人科の女性医師キャリア形成と「最後の授業」
小児科と産婦人科で科の違いはあっても、「女性が働く」と言うことに対する考え方がここまでしっかりしているのは地域性もあるのかな?とも感じました。まさに富山大学恐るべし!ですね。
2015年の記事の最後にカーネギーメロン大学教授で2006年に自身が膵癌の末期症状にあることを知って「最後の授業」を行われたランディ・パウシュ氏の言葉をご紹介しました。この「最後の授業」の時、当時まだ1歳半だった末娘のクロエちゃんに送った言葉です。
大きくなったら、僕のある女性同僚の言葉を知ってほしい。すべての若い女性にふさわしい言葉だ。僕が聞いてきたなかで、いちばんいい助言でもある。
「ずいぶん時間がかかったけれど、ようやく気づいたの。自分に言い寄ってくる男性がいたら、気をつけることは簡単。彼の言うことはすべて無視して、彼のすることだけに注意すればいいの」そのとおりだよ、クロエ。
各科をローテーション中の研修医や学生さん達はあちこちの診療科から勧誘を受けることと思います。医局や病院に勧誘する時には良い話しかしないものですが、そこで思い出して欲しいのがこの言葉です。自分を勧誘してくる医局の先生がどんな話をしてくるかではなく、特に女性医師の場合、すでにそこで働いている女性医師がどのような働き方をしているのか?その医局としてどんな具体的な取り組みをしていて実績があるのかをしっかり見極めて欲しいと思うのです。
なので、ランディ・パウシュ氏の言葉を借りれば、
自分を勧誘してくる医局があったら(教授がいたら)、気をつけることは簡単。彼(教授)の言うことはすべて無視して、彼の医局がこれまでやってきたことだけに注意すればいいの
皆さん、いかがでしょうか?

(文責 成育科 網塚 貴介)

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